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ADSL
 

ADSL(エーディーエスエル、Asymmetric Digital Subscriber Line : 非対称デジタル加入者線)は、ツイストペアケーブル通信線路(一般のアナログ電話回線)を使用して、上り(アップリンク)と下り(ダウンリンク)の速度が非対称な、高速デジタル有線通信技術ならびに電気通信役務のことである。

概要


既設のアナログ固定電話回線に多重化して、家庭や小規模事業所から公衆交換電話網を経由せず従量制の電話料金のない、定額料金・常時のブロードバンドインターネット接続のために使用される。

アナログ通信線にデジタル情報を乗せて通信を行うので、あくまでアナログ通信と考えられる。(FAXモデムでダイヤルアップ通信を行うのと同様)

イメージとしては、一般道路(既存の電話線)にレーシングカー(ADSLモデムによる高速データ)を走らせることで、高速化を図ると考えると、理解しやすい。

日本では、1999年9月にJANISネット(株式会社長野県協同電算)が、長野市の川中島町有線放送農業協同組合の有線放送電話網を使って下り最高1.5Mbps・上り最高272kbpsのサービスを始めたのが、商業ADSLサービスの始めとされる**

NTT電話網を利用した商用ADSLサービスは、2000年1月に「東京めたりっく通信」(後にソフトバンクBB へ吸収)によって、東京23区内の一部を対象に開始(申し込みは1999年10月頃から)されたのが始めである。

後にNTTの「フレッツADSL」など、主要な電気通信事業者によるADSL事業が立ち上がり始めた2001年頃から、ブロードバンドインターネット接続の普及の牽引役となり、利用可能な地域の拡大と連動して急速に普及しており、総務省の発表によると2003年12月末には1000万回線を突破した。基本的には電話線があればそのまま利用可能なため、配線工事などの手間が少ないこともADSLの普及に貢献している。

技術


ADSLの特徴として、一方の通信帯域を削ることで、もう一方により大きな通信帯域を割り当てている。通常は下り(ダウンリンク)の速度が上り(アップリンク)の速度よりも高速に設定されている。これは、一般家庭などでのインターネット利用ではWebアクセスなどの用途が主となるため、ダウンリンクデータの容量がアップリンクデータに比べてはるかに多く、ダウンリンクを優先することで総合的にはデータ通信速度を高速化しているのである。

ADSLモデム

ADSLモデムは、既設のツイストペアケーブル通信線路で、アナログ固定電話による通話に多重化するため、周波数帯域(0.3~3.4kHz)を避けた、より高く広い周波数帯域を使用し、複数の搬送波を利用したOFDMなどのデジタル変調を使用し、誤り検出・訂正や回線にあわせた通信速度調整を行っている。そのため、従来の電話回線モデムや低速仕様のISDNなどと比べて高速なデータ通信が可能である。

次の2種類の規格から、提供が始まった。

  • G.992.1(G.dmt) : ダウンリンク8Mbps(148kHz~1104kHzの帯域を利用)・アップリンク1Mbps(26kHz~138kHzの帯域を利用)
  • G.992.2(G.Lite) : ダウンリンク1.5Mbps(148kHz~552kHzの帯域を利用)・アップリンク512kbps(26kHz~138kHzの帯域を利用)

次のようなものが拡張規格として定められている。

  • Annex A : 北米向け。
  • Annex B : ヨーロッパのエコーキャンセラ方式のEuro-ISDNと同時使用が可能。
  • Annex C : 日本時分割複信TCM-ISDNとの干渉を抑えるため、2つの伝送マップを持ちISDNの伝送方向に同期して切り替える。

以下のような技術を用いることにより、ダウンリンク 12, 24, 40Mbps、アップリンク 3, 5Mbpsなどと高速化されていった。

  • S=1/2 1/4 1/8 1/16 : 誤り訂正ビット列を効率化する。
  • フルビットローディング(full-bit loading) : 1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を11~12から15ビットへと拡張する。
  • ハイビットローディング(high-bit loading) : 1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を15ビット以上とする。
  • ダブルスペクトラム方式(Double Spectrum) : 使用する周波数帯域を倍に拡張する。
  • クワドラブルスペクトラム方式(Quadrable Spectrum) : 使用する周波数帯域を4倍に拡張する。

また、アップリンクを低周波数側、ダウンリンクを高周波数側とすることで送受信の分離(周波数分割複信)をしているものが多い。さらに、エコーキャンセラ(Echo Canceller)を使用し、アップリンクとダウンリンクの周波数をオーバーラップ(Over Lap)させ、ダウンリンクの安定化・高速化とともにアップリンクの高速化を図っているものもある。

モデムによっては、IP電話用のアダプターを内蔵しているものもあり、ADSL信号でIP電話を利用することが可能な契約もある。

スプリッタ

スプリッタは、通話とデータ通信を同時に可能にするため、声周波数帯を電話機電話交換機へ、データ通信用の高周波数帯をADSLモデムへ、それぞれ周波数分割して接続するために用いられる機器で、分波器混合器との役割を持つ。

加入者線からの配線をLINE端子、電話機をPHONE端子、ADSLモデムをMODEM端子に接続するのが一般的である。また、ADSLモデムに内蔵されている場合もある。

なお、アナログ固定電話による音声通信を使用しないサービスの場合は接続不要である。

サービス提供上の問題点


通信速度

高周波伝送特性の保障されていないシールドなしツイストペアケーブルを使用しているため、速度や安定性などが設置条件によって大きく左右され、通信品質を保障することができない(ベストエフォート)。実際のところ、通常の使用環境では最良でも理論値の70~80パーセント程度となる。

ADSLの速度低下の主な要因としては次のものがある。

しかしながら、線路情報開示システム(NTT東日本NTT西日本)にアクセスして電話番号を入力すれば、電話局からの距離や回線損失などの回線の状況を知ることはできるものの(番号が光収容の場合はエラーになる)、実際には「契約可能区域」となっているにも係わらず、地方など交換局が疎になっている地域やノイズの多い地点などでは、速度が大きく低下する、または接続できない地点が存在することとなる。

ただ、回線の通信速度が遅い問題や、接続できない(リンクできない)問題は、モデムの技術水準向上や各種の技術開発により、普及開始当初よりは大きく改善している。ADSLという技術自体が2000年代に入ってから実用化されたもので、通信方式としては歴史が浅いこともあり、ADSLモデムのファームウェアを最新のバージョンに入れ替えると、通信状況が改善されることが多い。

業者の中には、通信速度が上がらない、通信できないにも係わらず契約を結ぶと言うことで問題視されている物もあり、国会などでも問題視された。現在に於いても、無理な契約が横行し、接続後、速度が上がらないなどの苦情が絶えない。また、広告での「最大速度は理論値であり、必ずしも仕様通りの速度が出ない」ことへの注意書きの扱いが小さいとして、業界へ公正取引委員会からの指導も入った。電気通信役務#日本の電気通信事業法における利用者保護も参照。

数十Mbpsといった理論上の最大速度は、恩恵を受けられる場所が電話局周辺に限定されることや、古いパソコンや初心者ユーザにはオーバースペック(過剰性能)の場合もあり、2005年頃から、ADSL登場初期のような、下り1Mbps・上り512kbpsの低速・低価格サービスが、限定的ながら再開されている。

地域格差

ADSLは、基礎的電気通信役務として位置付けられていない。そのため、提供地域の拡大の遅れ・料金の地域格差拡大の恐れもある。

また、対応インターネットサービスプロバイダにおいても地域格差が生じている。例えば、ADSLを加入者接続に利用する場合、NTTなどのアクセスライン提供事業者が設置する相互接続点に専用線でサービス提供用サーバなどを接続しなければならない。これらの機器・回線を他の事業者の社屋に有料で設置するなど高額な費用がかかる為、都市圏のプロバイダのみしか新規参入がしにくいという問題も抱えている。

情報格差の項も参照。

光収容

光ケーブル区間が電話局と利用地点の間に存在する光収容加入者は、残置されている空ツイストペアケーブル(銅線)があった場合にのみ、収容替え工事を加入者負担でした後で、ADSLの工事が可能である。しかし、コンテナタイプの簡易局舎などで遠隔多重加入者線伝送装置(RT:Remote Terminal,RSBM:Remote SuBscriber Module)に接続されていたり、マンションなどの集合住宅主配線盤に光ケーブルのみが引き込まれているなど、切り替えが不可能でADSLが利用できない場合もある。

2000年代に入り、幹線部分のメタル通信線路の新設が停止されているため、光収容回線はさらに増加するものと考えられる。

ただし、都市部などでは、以前より普及しているCATVのインターネットサービスや、2004年2005年辺りからの光ファイバー回線(FTTH/FTTx)の本格的展開普及により、ブロードバンド回線が引けない問題はおおむね解消されつつある(しかし集合住宅問題などは一部には依然残っている)。

アナログ電話回線切替えに伴うサービス低下

日本方式のISDNとADSLとは多重化して使用出来ないため、INS64をアナログ固定電話に切り替える必要がある。回線数を維持する場合IP電話を契約するもしくは、ISDNはそのままでタイプ2というADSL専用の回線を引き込必要がある。

アナログ固定電話の場合、INS64で使用されていた付加サービスの一部が使用不能となる。例えば、INS64にてi・ナンバーでFAXを別の電話番号にしている場合は月額利用料金が高いダイヤルインを契約しなければならない。また、漏話と呼ばれる現象(他の電話線との間で、干渉により通話音声が互いに漏れる)や、通話音質が低下するなどのの弊害が生じる場合もある。

ISDNとの競合

アメリカでADSLの普及が始まった当初は、回線敷設状態の良い日本でも速やかな普及の実現が期待されたが、実際には立ち上がりに出遅れがあった。

原因として、メタルケーブル加入者回線を独占的に保有しているNTTが、ADSLへの対応に積極的でなかった点が指摘されている。加入者までの光ケーブルによる高速回線の直結方式(FTTH)が普及するまでの間、一般家庭や小規模事業所向けのインターネット接続に、すでに多額の投資をしているISDNを利用してもらうというロードマップを描いていたため、ISDNより高速で安く・定額の常時接続を実現した上に、日本方式のISDNとの干渉問題があるADSLの登場は、これまでの投資を無駄にしかねない打撃であると考えられていたためである。

このような事情からNTTのADSLへの対応は出足が鈍く、電話局への端末装置設置は当初決して迅速だったとは言えない。この影響は大きく、大手ADSL業者Yahoo! BBが急激な加入者増加に伴って開通作業が大きく遅延し問題になった際、批判を受けたYahoo! BB側が「責任はNTTの作業遅延にある」と声明するなど泥仕合の様相にまでなった。その後も、端末装置の設置スペースをYahoo! BBが独占していると他社が抗議するなど混乱が続くこととなる。

現在は、NTTもFTTHとADSLの2本立てでブロードバンド対応を進める方針を明確にし、自社ブランド「フレッツADSL」でのADSLサービスも開始している。 当初の出遅れは十分に解消されているとみられる。

複雑な利用者契約

アクセスラインのみ提供の電気通信事業者が行う回線サービスである場合(現在、NTT東西のフレッツのみ)、あくまで加入者と電話局との端末装置同士で高速通信を実現するものである。この為、インターネットへの接続には、OCN等のインターネットサービスプロバイダとの契約も必要である。また、プロバイダがADSL接続業も兼ねている契約形態でも、加入者回線を使用するために、当然NTTなどの通信回線を保有する電気通信事業者と契約をしている必要がある。従って、計2種類の事業者と契約する必要があることになる。この煩雑さは、通信回線の保有とプロバイダ事業を合わせて行うCATVには無い部分である。ただし、プロバイダ側が、ISPサービスの申し込みと同時にフレッツの申し込みを代行受付し、料金請求も合算して行っている場合もある(しかし契約はあくまでも2箇所である)。

ユーザー側から見た場合には、この契約の手続きを少しでも簡略化するためと、プロバイダ側のユーザー囲い込みも目的に、プロバイダがADSL接続業も兼ねている契約形態(Yahoo! BBやTNC「ADSLパワーライン」)や、プロバイダが窓口となってADSL契約も一括して行う形態(ADSL提供業者がイー・アクセスやアッカ・ネットワークスの場合。ホールセール(wholesale = 卸売)とも言う)もあり、利用可能な地区の場合には「フレッツADSL」料金 + プロバイダ料金より総額料金が安く設定されているが、この場合にはADSL接続で複数のプロバイダを切り替えて利用できない欠点がある。

直収電話に変更した場合には、系列企業のADSLサービスだけしか利用できない、IP電話サービスは利用不可、公称速度(Mbps)が低いタイプしか利用できない、などの制限がある。

日本国内でのサービス提供事業者


アクセスラインのみ提供

  • NTT東日本 - フレッツADSL。山村部、離島を除く管轄地区全域。ADSL接続サービスのみ提供。プロバイダは別契約が必要。
  • NTT西日本 - フレッツADSL。山村部、離島を除く管轄地区全域。ADSL接続サービスのみ提供。プロバイダは別契約が必要。

プロバイダが窓口となる一括契約型

アクセスライン(接続サービス)を提供する業者は「ホールセール」(wholesale、卸売)とも言い、アクセスライン提供業者が各プロバイダと提携し、提携先プロバイダの一括サービスとしてプロバイダを窓口に契約する方式。

自社でADSL接続業も兼ねている形態

  • 東京めたりっく通信(現ソフトバンクBB) - 1999年7月、日本で初めて電話線を利用したADSLサービスを提供(東京都内)。その後、ソフトバンクBBへ吸収合併された。
  • Yahoo! BB - 自社でADSL接続サービスとプロバイダサービスを合わせて提供する。一部の山村部、離島を除く全国。
  • TOKAI(TNC「ADSLパワーライン」) - 自社でADSL接続サービスとプロバイダサービスを合わせて提供する(提供は静岡県限定)。
  • ビック東海(@TCOM) - 自社でADSL接続サービスとプロバイダサービスを合わせて提供する(提供は東京都神奈川県千葉県埼玉県限定)。
  • 平成電電 - 電光石火。自社プロバイダ契約とセット。直収ADSLもある。
  • JDSL - 日本テレコムが2001年から東京、名古屋、大阪周辺を対象に自社でADSL接続サービスとプロバイダ(ODN)サービスを合わせて提供していた。2002年に接続サービスはイー・アクセスに移管。
  • JANISネット(株式会社長野県協同電算) - 自社でADSL接続サービスとプロバイダサービスを合わせて提供する(提供は長野県限定)。
  • 直収ADSL
    • DION (メタルプラスネットDION ADSL50/10) - アクセスラインが直収電話KDDI「メタルプラス」となる。050番号のIP電話サービスも利用可能。
    • Yahoo! BB おとくラインタイプ - アクセスラインが直収電話の日本テレコム「おとくライン」となる。050番号のIP電話サービスは利用できない。

関連項目


外部リンク


インターネット技術 | 有線通信

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