経済学において、逆選抜 (adverse selection) とは、情報の非対称性が存在する(売り手と買い手が保持している情報量に格差がある)状況において発生する現象である。情報の非対称性が存在する状況では、情報優位者(保持している情報量が多い取引主体)は情報劣位者(保持している情報量が少ない取引主体)の無知につけ込み、劣悪な財やサービスを良質な財やサービスと称して提供しようとするインセンティブが働く。そのため、情報劣位者が良質な財やサービスを選択しようとしても、結果的にはその逆の選択が行われてしまう。このような、取引前に行われる機会主義的行動(モラルに制約されない利己的な行動)が、逆選抜である。逆選抜は逆選択とも呼ばれる。
本来は保険市場で使われる用語であり、保険加入者が幅広い層に行き渡らずに特定の層(多くの場合、保険金支払いの確率が高い層)に偏ってしまう現象を指す。国民皆保険制度のないアメリカ合衆国では、貧しく医療費のかかる(医療保険へのニーズがもっとも高い)患者ほど過酷な支払いを強いられ、医療費支払いによる破産や病院のたらい回しが多発して深刻な社会問題になっている。
中古車市場における逆選抜
中古車市場では、売り手は車の品質をよく理解しているが、買い手は車を購入するまで車の品質を詳しく調査できない場合が多い。そのため情報優位者である売り手は情報劣位者である買い手の無知につけ込んで、良質な車は手元に置いておき、劣悪な車を売りつけようとする。したがって中古車市場には劣悪な車ばかりが出回る結果になり、買い手が良質な車を選択しようとしても、結果的にはその逆の選択が行われてしまう。
中古車市場における中古車の品質などの情報は、売り手のみが知りうる情報であり、買い手には知りえない情報であるため、「隠された情報」と呼ばれている。
逆選抜への対策
売り手の所持する情報量が多い場合
売り手の所持する情報量が買い手の所持する情報量よりも多い場合に発生する逆選抜の問題を回避する方法の一つに、
国や
地方公共団体・
消費者団体などの第三者機関の介入が挙げられる。売り手が提供している財やサービスの品質について第三者機関が審査・検定を行い、買い手に対して財やサービスの品質を保証する方法である。劣悪な財やサービスを提供する売り手に対して罰則を課す
法や
条例を制定したり、良質な財やサービスを提供する売り手に対して税制面の優遇を与える法や条例を制定したりする方法を併せて行うと、財やサービスの品質の確保はより確実になる。
ただし、財やサービスの品質維持に対するインセンティブが売り手にある場合、第三者機関が品質保証に介入する必要はない。例として、信用やブランドなどが売り手の利益に大きく影響する場合が挙げられる。買い手が何度も繰り返し来たり、大量の顧客が企業の名前を信用の基準としている場合、その企業自身に財やサービスと値段の関係を正常に維持するインセンティブがもたらされるため、売り手と買い手との間に信用が形成され、第三者機関が品質保証に介入する必要はなくなる。
買い手の所持する情報量が多い場合
買い手の所持する情報量が売り手の所持する情報量よりも多い場合に発生する逆選抜の問題を回避するためには、売り手が提供する財やサービスの内容や宣伝方法が大きく影響する。保険市場を例に挙げよう。
一つに、個人ではなく、企業やサークルなどの団体に対して保険への加入を促す方法がある。個人を中心に加入者を募集すると、早死にする確率の高い人が加入申請する可能性が高くなるが、1つの企業やサークルに病気がちな人ばかりが集まっているケースは極めて特殊である。そのため全体の危険度は平均的な水準に落ち着くと予想されるので、保険会社は団体加入を優遇する制度を制定する方法によって、逆選抜の問題を回避できる。
もう一つに、保険会社の社員が個々の家庭を訪問して保険への勧誘を行う方法がある。街のいたるところに加入窓口を設けた場合、リスクの高い人が多く訪れてくる可能性が高くなる。情報劣位者である保険会社側が個人の家庭を訪問して回る方法によって、逆選抜の問題を回避できるのだ。
関連項目
参考文献
- Holt, Charles A. and Roger Sherman (1999年), "Classroom Games: A Market for Lemons," Journal of Economic Perspectives, Winter 1999, 205-214.
- Milgrom, Paul and John Roberts (1992年), Economics, Organization and Management, Englewood Cliffs, New Jersey: Prentice Hall.
- Rothschild, Michael and Joseph Stiglitz (1976年), "Equlibrium in Competitive Insurance Market: An Essay on the Economics of Imperfect Information," Quarterly Journal of Economics, 80, 629-649.
経済学 | 経済現象
Adverse Selection | Adverse selection | Snedvridet urval