覚醒剤(かくせいざい)とは、狭義には覚せい剤取締法で規制されている薬物。広義には中枢神経刺激薬である。中枢神経刺激薬は、脳神経系に作用して心身の働きを一時的に活性化する働きを持つ広義の向精神薬の一種である。
覚せい剤取締法で規制されていない中枢神経刺激薬としてはメチルフェニデート、コカイン、MDMAなどがある。これらは麻薬及び向精神薬取締法により規制対象となっている。特にコカインとMDMAは麻薬として厳しく規制されている。メチルフェニデートは向精神薬に分類される。
カフェインは作用も副作用も穏やかで普遍的に存在する事もあり、食品としての摂取や所持に関しては規制はされていない。しかし、カフェインは単体の致死量が少ないなどの理由でその抽出物は薬事法で劇薬に指定されている。またこれを調剤したものは医薬品に該当する。中毒性の存在も知られており、カフェインも含めて禁忌する人も見られる。
一般に「覚醒剤」といった場合メタンフェタミンを指すことが多く、メタンフェタミンはヒロポン、スピード(speedから“エス”とも)、シャブなど多くの別名を持つ。ヒロポンはメタンフェタミン塩酸塩の商品名のひとつで大日本住友製薬の商標である。シャブは「骨までしゃぶる」に由来するとされる。
MDMAはこれらの作用に加え、セロトニンの放出を起こすことが知られている。
メチルフェニデートの塩酸塩である塩酸メチルフェニデート(商品名リタリン)は難治性うつ病、注意欠陥多動性障害(ADHD)やナルコレプシーに対して処方される。特にADHD、ナルコレプシーに対して有効な薬剤である。しかしその反面、長期連用により依存を生じたり、不眠などの副作用を伴うこともあり、現在ではマスコミなどから安易な投与を危惧する声もあがっている。
カフェインは眠気覚ましとして広く利用されている。また、コカインは局所麻酔薬として使用されることもある。
覚醒剤は通常、経口的、経静脈的に摂取される。濫用者は経鼻的、喫煙的に摂取することもある。連用により耐性を生じるため、摂取量が漸増することが多い。カフェインは比較的依存性が低いとされているが、長期連用することによりカフェイン禁断性頭痛などの離脱症状を起こすことが知られている。
中脳辺縁系のドパミン過活動は、統合失調症において推定されている発生機序と同じであるため、覚醒剤使用により統合失調症と同様の幻覚・妄想・恐怖感・興奮などの中毒精神病症状を生じることがある。
また、覚醒剤の使用を中断しているにも関わらず、同様の症状が突如現れるものをフラッシュバックと呼ぶ。フラッシュバックは使用直後に生じる場合から、使用を中断して数年を経て発症する場合まである。覚醒剤後遺症として統合失調症と区別がつかないような、慢性の幻覚妄想状態や、意欲低下や引きこもりといった、統合失調症の陰性症状の様な症状を呈し、精神科病院への入院が必要となる場合も多い。
また、濫用時あるいはフラッシュバック時の幻覚や妄想に支配されて自傷・他害行為を行う場合もあり、殺人事件に至る場合すらある。
静脈内注射に伴う合併症として、注射針の共用によるC型肝炎、HIVの感染、注射時の不潔な操作による皮膚・血管の感染・炎症、敗血症などがあげられる。
MDMAはメタンフェタミンなどとは異なる毒性を有している。急性中毒により悪性高熱症、興奮、錯乱などを呈することがある。また長期使用によりうつ病、長期記憶機能の障害、注意障害などを生じる。これは、脳内において気分の調節、記憶などに関与しているセロトニン系神経をMDMAが破壊するためであると考えられている。
戦時中は、日本のみならずアメリカ、イギリス、ドイツなどでも上記と同様の目的で利用されていたが、これらの国々で戦後に覚せい剤が蔓延したという記録は寡聞にして聞かない。製薬会社と一部の研究者や官僚が結託し、非加熱血液製剤の販売を続けさせたことによりエイズが蔓延した事件が過去にあったが(薬害エイズ事件)、覚せい剤に関しても同様の構図が読み取れると指摘する者もいる。戦時中に大量生産し在庫の処分に困っていた製薬会社を助けるために危険性を承知しながら販売を黙認していたとの説である。ただし、戦後の混乱のために法規制が後手に回ってしまっただけであるとの考え方が一般的である。社会問題化するようになり、簡単に服用可能な錠剤から、比較的抵抗感のある注射するタイプのアンプルに切り替えられたが、皮下注射によりかえって効力を増強しただけであった。
禁止されるまでに発売されていた主な製品として、メタンフェタミン製剤である「ヒロポン」(大日本製薬・現在の大日本住友製薬)、アンフェタミン製剤「ゼドリン」(武田薬品工業)があった。ヒロポンは現在でも、法律で許可された特定の医療機関に対して販売されている。
覚せい剤蔓延が社会問題化し、1951年に覚せい剤取締法が制定されると覚せい剤の取引は地下に潜り、暴力団等の主要な資金源となっていった。
覚せい剤自体は非常に安価に製造できるが、取引が非合法化されているため闇ルートでの流通となり、末端価格(小売価格)は数百倍にも跳ね上がる。このため、密輸や密売があとを絶たない。近年では、北朝鮮からの密輸も相当量あるといわれ、同国の外貨獲得手段となっていると指摘されている。また、中学生・高校生がダイエット感覚で濫用したり、栄養剤や痩せ薬等と称するものを高額で購入し、騙されて服用するケースも増加し、社会問題になっている。
近年、デザイナーアンフェタミンなどと呼ばれるMDMA、MDEAなどが若年者を中心に新たな蔓延を起こしているが、これらの薬剤にも濫用により大きな副作用があり、過去には死亡例もある。取り締まり強化とともに、副作用についての教育が重要視されている。
日本における薬物犯罪の相当部分がこの覚せい剤の濫用事犯であることなどに鑑み、覚せい剤取締法が麻薬及び向精神薬取締法とは別個の単行法として制定され、覚せい剤の濫用事犯を、麻薬及び向精神薬の濫用事犯よりも重い刑罰をもって禁圧している(麻薬及び向精神薬取締法66条1項、覚せい剤取締法41条の2参照 所持だけでも最高刑は懲役10年)。刑事ドラマで捜査員が結晶の入った小袋に穴を開けて内容物を少量指に取って舐め、「…覚せい剤だ!」と叫ぶシーンがあるが、覚醒剤ではなく毒物であったり、混ぜ物が多い粗悪品の場合、その不純物に毒性があれば危険である上、捜査員であっても摂取は違法であるため、このようなことはあり得ない。実際には判別用試薬と小型試験管やトレーなどがセットになった携帯用検査キット(職務質問等で、現行犯(現物所持)の検挙を容易にできるよう、近年では警察等の捜査車輌に常備されることが多い)を用いて簡易鑑定を行なう。職務質問での簡易鑑定を拒否すると所轄警察までの任意同行を求められ、対象者が尿を我慢できなくなるまで実質的な拘束を行う場合もある。
売買や大量所持が目的でない、覚せい剤の所持もしくは使用で逮捕された初犯者は、大抵、懲役が1年6ヶ月から2年、執行猶予3年の判決を下される。再犯者には執行猶予がつかないことが多い。
アミノ酸のフェニルアラニンを出発物質として合成させることもできる。
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