被疑者(ひぎしゃ)とは、捜査機関によって犯罪を犯したと思料された結果、捜査の対象となっている者をいう。起訴された後は被告人と呼ばれる。
被疑者と容疑者はほぼ同義であるが、司法手続及び法令用語としては「被疑者」が用いられる。
ただし、出入国管理及び難民認定法での強制退去手続の対象となる外国人のことを「容疑者」と言う等、まれではあるが法令用語として「容疑者」が使用される場合がある。
1989年12月より、ほとんどのテレビ、新聞社などのマスメディアは「容疑者」という呼称をつけるようになった。それ以前は呼び捨てであったが、被疑者は無罪を推定されている立場であり、呼び捨てでは犯人扱いしているのに等しいことが呼び捨て廃止の理由であったためである。
なお、学校で使われる公民科の教科書では、「~である人物を容疑者(または被疑者)と呼ぶ」などと、容疑者の文字は太字、被疑者の文字は細字のカッコ書きになっている。容疑者という響きの方が世間一般では浸透しているためだと思われる。
刑事ドラマや小説などで警察官同士が被疑者を「容疑者」と呼ぶ描写が散見されるが、これは作者・脚本家の誤りと見てよいと思われる。
日本での無罪推定報道の有名無実化の一因には、捜査機関の逮捕に対する慎重な姿勢があるとされる。逮捕の及ぼす社会的影響が日本にあっては非常に大きいため、捜査機関は被疑者の逮捕に一般に慎重であり、相当程度確実な証拠が得られなければ逮捕しないことが多い。このため、日本では逮捕された者の相当大部分がそのまま起訴され、そのほとんどが有罪の判決を受けるという事態(捜査機関の判断と裁判所の判断の近接)が生じている。これらにより、いきおい一般人は逮捕された者を真犯人と考え、またマスメディアは逮捕された者を真犯人であるかのように報道することになっているのである。
英米法国にあっては、一般に逮捕の要件は非常に緩やかで、また誤認逮捕も相当多数に上るため、マスメディアにより逮捕が報道されても、裁判により有罪の判決を受けるまでの社会的影響は日本と比較して相当程度小さい。このため、私人の逮捕報道の際に匿名性を維持すべきとの主張は、大陸法国と比べて小さい。
だが、誤認逮捕が多いということは、捜査当局のレベルの低さもまた如実に表わしていることにもなり、結果的には「容疑者≒犯人」であるほうが当然望ましい。
容疑者呼称は原則として逮捕された被疑者にしか用いられていないが、時としてマスメディアは、被疑者の身分、自社との関係などから恣意的な使用をすることがある。例えばSMAPの稲垣吾郎が2001年8月に駐車違反を巡る道路交通法違反と公務執行妨害、傷害容疑で逮捕された時、新聞は「稲垣容疑者」と報道したが、一部のテレビ局は「稲垣メンバー」と報道した。稲垣の所属プロダクションであるジャニーズ事務所への配慮と指摘されている。 また、国会議員が被疑者となった場合は、逮捕・起訴されても「○○議員」「××前議員」と呼び続けることもある(逆に徹底して「△△容疑者」としか呼ばない場合もある)。
2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件の首謀者とされるオサーマ・ビンラーディンは同事件の被疑者で国際指名手配されているにもかかわらず「ビンラディン氏」と敬称付きで報道されてきたが、読売新聞はいち早く「ビンラーディン」と呼び捨てで報道し、2004年10月29日にビンラーディンがビデオで同事件への関与を認めると、マスメディアは一斉に「ビンラディン容疑者」に変更した。
2004年11月にはタレントの島田紳助が所属プロダクションである吉本興業のマネージャーの首を殴って頸椎に捻挫を負わせたとして傷害容疑で書類送検されたが、「島田容疑者」と報道するマスメディアもあれば、稲垣吾郎の時と同じく吉本興業への配慮からか「島田司会者」「タレント・島田紳助さん」「島田紳助所属タレント」と報道するマスメディアもあった。