自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)とは、本来は細菌・ウイルスや腫瘍などの自己と異なる異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患の総称である。自己免疫疾患は、全身にわたり影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患の2種類に分けることができる。
関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)に代表される膠原病は、全身性自己免疫疾患である。
20世紀初めには、Paul Ehrlichにより提唱された、免疫系は自分自身を攻撃しないとする自己中毒忌避説(Horror autotoxicus)を代表とする考え方が主流であった。しかし、その後の研究により自分の体の構成成分を抗原とする自己抗体が発見されるにつれ、自己免疫疾患の存在が明らかになっていった。現在では、自己免疫が関与している疾患や、自己免疫の関与が示唆される疾患が多数知られている。
多くの自己免疫疾患は女性に多い。理由は明らかになっていないが、ホルモンが関与しているという説がある。また、慢性的に経過し、難治性であるため、日本では公費負担の対象として定められた特定疾患に含まれている疾患も多い。
治療法は疾患により異なるが、免疫異常が疾患の原因となっていることから、多くの疾患でステロイドと免疫抑制剤が第一選択の薬剤として用いられる。
自己抗体
自分自身の
細胞や組織を
抗原とする
抗体のことである。全身の組織に対し非特異的に反応する抗体と、特定の臓器に対し特異的に反応する2種類に分けられる。
前者で代表的な自己抗体は、抗核抗体(ANA)や
リウマトイド因子(RF)が挙げられ、後者では
橋本病における抗サイログロブリン抗体や
重症筋無力症における抗
アセチルコリンレセプター抗体などが挙げられる。
疾患により検出されやすい自己抗体があり診断に用いられるが、異なる疾患で同じ自己抗体が認められることもある。また、自己抗体は必ず検出されるわけではなく、陰性であってもその疾患を否定する根拠にはならない。
- リウマトイド因子 (RF): 変性IgGに対する自己抗体で、主にIgMに属する。関節リウマチで最も陽性となりやすい(約70~80%)。しかし、他の自己免疫疾患でも陽性となることも多く、自己免疫疾患と関係のない疾患でも陽性となることがあり、疾患特異性は低い。
- 抗核抗体 (ANA): 自分の細胞の核内の構成成分を抗原とする自己抗体の総称。蛍光色素を用いた蛍光抗体法を用いて検出されることが多い。蛍光抗体法での染まり方のパターンにより、辺縁型 (peripheral pattern) 、均等型 (homogeneous pattern) 、斑紋型 (speckled pattern)、核小体型(nucleolar pattern)、細胞質型(cytoplasmic pattern)、PCNA型 (proliferating cell nuclear antigen pattern)、セントロメア型 (centromere pattern) のように分類される。抗核抗体は総称であり、多数の抗体が含まれている。例として、抗dsDNA抗体、抗RNP抗体、抗Sm抗体、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗Scl-70抗体、抗Jo-1抗体、抗PCNA抗体、抗セントロメア抗体などがあげられる。
代表疾患
- 関節リウマチ (RA): 全身の関節を中心に炎症を来す疾患。30~50歳代に多く発症し、男女比は1:3。
- 全身性エリテマトーデス (SLE): 全身の臓器に障害が生じる慢性炎症性疾患。多彩な臓器病変が見られるが、ループス腎炎が代表的。15~40歳に多く発症し、男女比は1:10。特定疾患治療研究対象疾患。
- 全身性強皮症(PSS、進行性全身性硬化症、全身性硬化症、強皮症、SSc)
- 進行性全身性硬化症は全身の組織が硬くなる病気。
- 統計
- 30~50歳代に多く、男女比は1:4。
- 病態
- 全身でコラーゲンが作られ過ぎる事による。
- 症状
- コラーゲンの作られすぎで、手の指がソーセージの様に硬く大きくなる。ソーセージの様に硬く大きくなる事をソーセージ様の浮腫性硬化と言う。
- コラーゲンの作られすぎで、仮面様顔貌になる。本症の仮面様顔貌は鼻の先が尖り、唇が厚くなって口が小さく見え、口から放射状に皺が出来る、と言う特徴的な顔貌になる。
- コラーゲンの作られすぎで、食道平滑筋が動かなくなり、逆流性食道炎、等から嚥下困難を来たす。
- 合併症
- 肺の間質にコラーゲンの作られすぎで、肺線維症を来たす。
- 検査
- 自己抗体には抗Scl-70抗体、抗セントロメア抗体、等が陽性になる。
- 治療
- 多発性筋炎 (PM)、皮膚筋炎 (DM): 全身の横紋筋に障害が起こり、筋力低下や筋肉の痛みなどの症状が見られる疾患。眼瞼部の紫紅色の皮疹や手指伸側の落屑を伴う紅斑等の皮膚症状を呈する場合には皮膚筋炎と呼ばれる。自己抗体は、抗Jo-1抗体、抗Mi抗体が特異的。好発年齢の分布は二峰性であり、5~15歳の小児期に小さなピークと35~65歳の成人期に大きなピークを持つ。男女比は1:2。特定疾患治療研究対象疾患。
- 混合性結合組織病 (MCTD): 全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎それぞれの症状が混在している疾患。抗U1-RNP抗体が特徴的。中年発症が多く、男女比は1:13~16。特定疾患治療研究対象疾患。
- 結節性動脈周囲炎 (PN): 全身の小~中等度の太さの動脈炎が生じる疾患。中動脈が侵される肉眼的PN(古典的PN)、小動脈が侵される顕微鏡的PNに分けられ、顕微鏡的PNでは抗ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)が高率に陽性となる。60歳代に多く、やや男性に多い。特定疾患治療研究対象疾患。
- バセドウ病 : 甲状腺刺激ホルモン受容体刺激抗体によって甲状腺機能の亢進がおこり、血中の甲状腺ホルモンが異常高値となる。
- 橋本病(慢性甲状腺炎): 甲状腺の慢性炎症のため、びまん性の甲状腺腫大や甲状腺機能低下症などを来す疾患。中年女性に多く、男女比は1:20~30。自己抗体として、抗サイログロブリン(Tg)抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)抗体が認められる。
- 重症筋無力症 : 運動の反復による筋力低下が見られる疾患。自己抗体として、抗アセチルコリンレセプター(AChR)抗体。男女比は1:2で、女性では20~40歳代に多く、男性では50歳以上に多い。特定疾患治療研究対象疾患。
- 1型糖尿病 : 膵β細胞が破壊されてインスリンの分泌障害が起きる疾患。2型糖尿病は生活習慣病。自己抗体は、抗グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、IA-2抗体など。小児や若年成人の発症が多い。
- 原発性胆汁性肝硬変 (PBC): 肝内胆管が慢性炎症により壊され、胆汁のうっ滞が見られる疾患。黄疸や掻痒感などが見られる症候性PBCと症状が認められない無症候性PBCがある。中年以降の女性に好発し、男女比は1:8。自己抗体に、抗ミトコンドリア抗体(AMA)、抗ピルビン酸脱水素酵素(PDH)抗体。特定疾患治療研究対象疾患。
- ギラン・バレー症候群 (GBS): 多発性の根神経炎の一つで、運動神経が障害のため四肢に力が入らなくなるなどの症状を呈する。自己抗体として抗ガングリオシド抗体が半数程度に見られる。
- シェーグレン症候群 (SjS): 涙腺、唾液腺などの外分泌腺が障害され、涙や唾液の量が低下する疾患。中年女性に多く、男女比は1:20。抗SS-A抗体、抗SS-B抗体が見られる。抗SS-B抗体は特異的である。
- 抗リン脂質抗体症候群(APS)
- 抗リン脂質抗体症候群(こうりんししつこうたいしょうこうぐん)は、リン脂質に対する自己抗体が出来る症候群。
- 原因
- 何らかの理由によって自己抗体である抗リン脂質抗体の産生される事。抗カルジオリピン抗体(aCL)、ループス抗凝固因子(LAC)などの抗リン脂質抗体を有する。
- 症状
- 動脈血栓症、深部静脈血栓症、習慣性流産、血小板減少症、等が見られる。
- 統計
- 全身性エリテマトーデスを基礎疾患としていることが多い。
- 多発性硬化症 (MS): 脳や脊髄の神経線維である軸索を覆っている髄鞘が壊れる(脱髄という)疾患。脱髄の起こる部位により多彩な症状を呈する。15~50歳に発症し、男女比は1:1.3程度。特定疾患治療研究対象疾患。
- 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP): 自己の血小板に対する自己抗体で感作された血小板が、脾臓や肝臓などで破壊されて血小板減少をきたす疾患。急性型は小児に多く男女比は同程度であり、慢性型は20~30歳の女性に多い。特定疾患治療研究対象疾患。
- 免疫性溶血性貧血 (IHA): 自己の赤血球の膜上抗原に対する自己抗体が作られ、結合した赤血球が破壊されて貧血を来す疾患。
- 天疱瘡 : 皮膚に対する自己抗体の関与により、表皮内に水疱を生じる疾患。抗表皮細胞間抗体(尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3、落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1に対する抗体)が見られる。中高年発症で女性にやや多く、特定疾患治療研究対象疾患。
- 類天疱瘡 : 皮膚に対する自己抗体の関与により、掻痒を伴う紅斑や表皮下に水疱を生じる疾患。抗表皮基底膜部抗体が関与している。70歳以上の高齢者に多い。
多腺性自己免疫症候群
多腺性自己免疫症候群(たせんせいじこめんえきしょうこうぐん)は、複数の
内分泌器官が自己免疫によって障害された
症候群
検査
- クームス試験(Coombs試験)
- クームス試験(くーむすしけん)は、血液と抗ヒト免疫グロブリン抗体を反応させて血液凝集反応の有無を見る検査。II型アレルギーによる。
- 直接クームス試験
- 直接クームス試験(ちょくせつくーむすしけん)は、患者の赤血球と抗ヒト免疫グロブリン抗体を直接反応させるクームス試験。
- 間接クームス試験
- 間接クームス試験(かんせつくーむすしけん)は、患者の血清と抗ヒト免疫グロブリン抗体を、間に正常なヒトの赤血球を介して反応させるクームス試験。
関連項目
病気 | 免疫学
Autoimunita | Autoimmunerkrankung | Autoimmunity | Enfermedad autoinmune | Autoimmuunisairaus | Maladie auto-immune | מחלת חיסון עצמי | Autoimune bolesti | Auto-immuunziekte | Аутоиммунные заболевания | Autoimunitná choroba | Автоімунітет | 自體免疫性疾病