自傷症(じしょうしょう、cutting、syndrome of self-injury)は心理療法士がよく使う自傷行為(じしょうこうい、self-injury SI:self-mutilation SM他多数の表記あり)の診断名である。
定義としては自分が何をしているかについて判断力の低下した状態で自分の肉体を「意図的ではなく」傷つけるものを言う。
概要
自傷症は、深刻な症状であるにもかかわらず、DSMでは公式の疾患名としては認められない。
手首を切ることを特にリストカットと言う。手首(wrist)を切る(cut)ことから造られた和製英語である。しかしながら英語においてもこの用語が使われる事もある。ただし、英語ではcut(切る)の代わりにslash(切りつける)を使うことが多い。日本では略して「リスカ」とも言う。病名として「リストカットシンドローム(手首自傷症候群もしくは手首自傷症症候群)」と呼ばれることもあるが、自傷行為そのものが病気としては一般認知されないため暫定的な呼称である。自傷行為全般を指して言うこともある。日本において、リストカットをする者の事は「リストカッター」と呼ばれる。
また、日本では腕を傷つけることをアームカット(arm cut 略して「アムカ」)、
脚を傷つけることをレッグカット(leg cut 略して「レグカ」)とも言う。
また、爪を皮膚にたてて強く掻き毟る、シャーペンなどを突き刺す、身体を壁に強打する、手などを噛むなどの方法もある。女性ならば胸を傷つけることもあり、性器付近を切ることもある。そのほかにも首や動脈を狙って切る場合も考えられる。
注意:
以降の文章にはリストカッターの詳細な心理描写も含まれています。場合によっては読んでいるだけで共依存を起こし自傷行為に至る可能性があるので注意して下さい。
自傷行為の様相
世界的な自傷行為の様相
推測ではあるが、リストカッターの少なくとも半数が
性的虐待の被害者であるとも言われる。リストカットはかつて
1960年代に
アメリカの女性にみられ、社会問題となった。この頃はアメリカでは性意識の開放が始まった頃であり、それが原因であったのではないかという指摘もある。自傷行為をするのは主に若い未婚の
女性が多く、
男性は少数である。これは男性はその
衝動を外部に向けやすいからであると一般に言われている。常習性が高く、周囲の理解も得られにくい為に長期間苦しむことも多い。CBC
カナダ放送協会が500人のスクールカウンセラーに過去一年間に診た自傷者数を尋ねてみたところ、各校に2~3人いるという回答結果が得られ、非公式な調査結果ではあるが、その発症率は女子250人に1人とされる。
自傷としては比較的軽い画像ですが自傷画像はこちらから見られます。不快感を覚えない方のみ見て下さい。
日本での自傷行為の様相
日本では自傷行為は欧米からの症例として紹介されだした1990年代後半から急激に増加した。日本では基本的に精神分析や精神関連用語の普及と共に実際の症例が増す傾向がある。自傷行為には伝染性があるとされ、インターネット上での自傷関連サイトとの影響も指摘されている。全国高等学校PTA連合会が、(独)福祉医療機構(子育て支援基金)の助成で、2003年度から3カ年計画で実施している「高校生の心身の健康を育む家庭教育の充実事業」の第3年次の調査によると、高校2年生5755人回答を得、木原雅子京都大学大学院助教授が集計・分析を担当した結果、自傷行為は男子5.3%、女子10%が経験有と回答した。また、同調査では「出会い系サイト」は男子3.9%、女子5.8%、「援助交際」は男子1.1%、女子1.5%が経験していると回答した。
推測の域をでないが自傷行為は、性的に逸脱している肉体の状況や環境に精神が追いつかないことが原因であり、最近の日本での自傷行為の増加はこれに基づくのではないかとも考えられている。性的に極度に解放された情報が溢れる現代の日本社会では、本人の自傷行為の切っ掛けとなる性的刺激が多く存在しているのも大きな問題であり、状況の改善は難しい。最近は自傷行為専門の医師なども現れているが、必ずしも状況は好転していない。
自傷行為を行うのは世界的に見れば女性が多いはずであるが、何故か最近の日本では男性も増加傾向にあるとされる。この傾向に関してはよく分かっていないが、日本ではアグリッピーナコンプレックスやいじめ、校内暴力等の影響が強いためであるという指摘もある。
自傷行為の理由
悲しみや怒り、
孤独感や劣等感などの感情により衝動を抑えきれない状態に陥った時、または
呼吸困難、
頭痛、吐き気など精神的
ストレスによる症状が同時に襲ってきた時、それを抑えるために自らを傷つけてしまうと一般的にはいわれているが、本人にとっては具体的に何が引き金となり自傷行為を行うかは何故か大抵不明で、自傷を行う者からすると「ただ強い衝動があった」などといったはっきりとしない妙な説明をしてしまうことが多く、中には自傷をしている時点でなぜか
記憶、
意識が無い場合もある。これは、自分の受けている性的不安や精神的苦痛が何であるかについて、成長期にはっきりとした性教育などの認識を植え込まれていなかったためであるからだと思われる。だが、後々には実際の治療のために向き合わなければならない。現在では専門の心理療法士などにより自傷行為をする要因としていくつかのパターンがあることもわかっている。
目的は死に到る目的の自殺のためではなく、孤独感や空虚感を紛らわすための「自己の再確認」や「ストレス解消」といった生きる願望が屈折した形になって現れる行為である。しかしながら、自傷行為は生きたいために行う行動であるにもかかわらず、本人に自殺願望があることも多い。これは、自傷行為自体は生きたいという考えの屈折した形であるため、実際に自殺をしてしまおうとする願望を抑えるためであると思われる。自傷行為は自殺を抑えるためのものではあるが、本人に自殺願望があることも多いため、最終的に自殺をしてしまう事もあるとされる。しかしながら、自傷行為による事故死と自殺は判別がつき辛く、その実際の様子ははっきりとはよく分かっていない。
その行為は社会的に理解されがたく、社会的な観点から見るとやっかいなものとみなされてしまうことが多い。しかしながら、その状態は本人の自らの状態に対する危険信号であることも多いのでそれに関しての理解が必要であろう。また、医師は初め脳器質疾患を疑う事もあるが、これは念のための診断である。
自傷行為が原因で死亡まで至るケースは極めてまれであるが、静脈切断でもかなりの出血量であり、極度の貧血のために心臓が弱ってしまうなど健康に差し支えるのも事実である。また、精神的に乖離している場合、予想外に動脈を損傷することもあり、この場合本人の意思がどうであれ結果的に死亡してしまうこともある。どれだけ自分を傷つけていても、精神的には全く傷ついていないため、本人は「自分を傷つける事なんかしてない」としらをきる場合もある。
また、肉体を切るとエンドルフィンと言うホルモンが分泌され、精神的な苦痛が緩和されるのでそれを期待して切る者もある。
自傷行為を誘発する要素
身体の自己認識にもその病理の問題点が大きく存在している。日本では身体の所有がその本人であるという精神の認識が特に希薄であり、
家父長制度の影響とその名残から、幼少のうちから身体の所有権は当の本人になく、無意識に漠然と自分以外の誰か(保護者もしくは他人)の所有である意識をもつ年少者が多い。性的であれ何であれ、何人にも精神を含め身体の所有権を決して渡してはならず、能動的に身体意識の恢復を図る事がリストカット者の精神の統合や安定に繋がるといえる。
自傷行為を誘発する精神疾患・人格障害
リストカットする者に最も疑われるのは
境界性人格障害であり、
鬱病、
演技性人格障害、
自己愛性人格障害、
摂食障害、
抜毛症、
強迫性障害なども疑われる。また、
統合失調症と判断される事もある。
精神医学上はリストカットはそれらの
人格障害、
精神病の二次的な症状であるとされ、それ単独で起こるとはされない。しかしながら実際には、必ずしも症状の深刻さとリストカットのひどさは一致しないことが分かっている。これは「リストカッター(本人)としての
アイデンティティ」が確立するか否かによるようである。これはかつて多くの精神病者と病院との間の関係で、
社会学者達から指摘がされたものであり、病院での交友関係が正常化し「自分は健常者」という意識が持てなくなることがあるためとされる。
関連性
家族構造との関連性
自傷行為をする
家庭には様々な問題があることが分かっている。以下に代表的なものを並べる。ただし、必ずしも家族構造のみが原因となるわけではなく、実際には様々な原因がある。
- 親に経済的な問題がある場合、兄弟間において差別的な扱いがされ、兄弟間において罪悪感と緊張感が働くとされる。差別された子供が怒りに敏感な場合、その感情を内面化し、実際には親が差別しているにもかかわらず、自分自身に対して怒りを感じ自傷行為に至るとされる。また、優位に立たされた子供もその罪意識から自傷行為に走る事もあるとされる。
- 親が仕事上問題を抱えている場合、親が精神的に非常に弱い立場に位置してしまうため、親が自分自身を卑下してしまうことがある。そのため、親が子供に対して怒りを感じたり、依存する結果になり、子供は子供として親に甘える事ができなくなる。その結果として、自分自身の精神を安定させるため、自分自身に与える痛みを儀式化し自傷行為を行う結果になるとされる。
- 親が虚弱体質の場合、親が自分自身に対して威厳を持つ事ができないため、親が自分自身の状態に対してストレスを感じやすく、そのためその怒りを子供に向け虐待を振るってしまうことが多いとされる。この場合自傷行為は、親に対する罪悪感から起こす場合と、痛みによって家族的なものを連想させるために起こす場合があるとされる。
- 親が統合失調症などの感情障害を患っている場合、親の怠慢が起こってしまうとされる。この場合親には健全な家族に見られるような親としての活気が見られない。そのため子供は親としての役割を果たしてくれない親に対して強い憤りを感じるとされる。しかし、周囲にそれを共感してくれる人がいないため、その極度に鬱積した不満から自傷行為を行ってしまうとされる。
- 親がアルコール依存症の場合、身体的・性的虐待が起こる率が高いとされ、子供にとっては虐待が当たり前だと思っていることも多く、自分で自分を傷つける事も当たり前だと思っていることも多い。だが、比較的冷静な面も持ち合わせていて、客観的には自分自身の自傷行為や親からの虐待を恥じている事が比較的多いとされる。
- 親が薬物中毒の場合、親の情緒は不安定になり、親子の役割の逆転が起こり、アルコール依存の親を持つ子供のように子供がその責任を背負い込み過度のストレスを負うことが多く、自傷行為はその結果として起こるとされる。虐待を受けているケースも少なくなく、自分自身を傷つける事を正常だと思っていることも少なくない。
- 両親の不和が激しい場合、子供は本来配偶者に向けられる暴力を受け、虐待の犠牲者になる事がある。この場合、子供は自分に対する虐待の事を家族を健全なものにするために必要な行為であると認識し、それを内面化し、その結果として自傷行為に走るとされる。
- 両親が離婚している場合、片方の親がかつての配偶者に対する怒りを子供にぶつける事があり、子供が虐待の犠牲者になる事も多い。しかしながら、片方の親しかいないため、親を信じない事は親を完全に失う事に等しいため、それを正常だと思い込むことで自分が孤独になる事を防ごうとするとされる。しかしその結果として自分を痛めつける事を自己の内部で正当化してしまい、結果的に自傷行為に至るとされる。
- 片方の親を亡くした場合、関係に問題があったとしてもたった一人の親であるため捨てられる事を恐れ、たとえ虐待などがあっても親を弁護してしまう事もある。また、親との関係が破壊される事を恐れ、この子供は大胆な行動や怒りを表現する能力に欠けていることが多い。しかし、それによって問題に対する怒りが解決できるわけでもなく、その結果として怒りの解決策として自傷行為をしてしまうとされる。
虐待全般との関連性
自傷行為をする者の多くは幼少期に何らかの
虐待を受けているケースが多い。だが、そうであるからといって必ずしも虐待をされた者が自傷行為をするわけではなく、
トラウマを抱えながらも必死に乗り越えようとしている人が多いのも事実である。各種
統計などから虐待との関連性はほぼ確認されていると言ってよいが、虐待されている人の実数や虐待の状況がよく分かっていないため、自傷行為との関連性がどのくらいであるかははっきりとはよく分かっていない。しかしながら、児童擁護施設にいる被虐待児は頻繁にリストカットをしている事が確認されている。しかも本人は虐待については一切語らないという。その子供は施設から学校に通っており、授業が終わって施設に戻ると手首を切ってしまうという。そのリストカットは、虐待の記憶から意識をそらすためだといわれている。
鹿児島大学の2006年1月発表の九州の5大学に通う1~2年生1626人を対象にした調査によると、回答者数1592人(男性831人、女性761人)のうち、自傷行為の経験者は120人(7.5%)で「家族からの放任や罵倒などを経験した」と答えた人が自傷行為をする危険性は、そうでない人の8.7倍、「第三者からの性的暴力を受けた」が5.8倍、「教師や友人からの無視を経験した」が5.5倍、「両親からかわいがられた経験がない」が4.2倍とされているが、大学まで進学できない自傷行為者も多いと推測されているので、この調査に対しては疑問も多く投げかけられている。またこの調査に関しては、虐待を受けた人間の多くはそれに関して何も語らないという事に関しても疑問の余地が投げかけられている。
リストカットで話題になるのは親からの身体的・性的虐待であるため、リストカットをする者は必ず全員が身体的・性的虐待を受けていると思われる節もある。だが、正反対に親の怠慢・愛情不足が引き金になるケースも多い。また、友情関係など周囲の環境にひびが入ったために起こるケースも多い。
近親相姦との関連性
重度のリストカッターの場合、
近親相姦が過去にあったことが多い。この場合、自分がやっている事と自分のされている事の境界線がつかなくなり、自分を痛めつける事がそのまま愛情として認識してしまう他なくなってしまう事が多いとされる。この場合実はもう片方の親に憎しみを抱く事が多いとされる。近親相姦の定義については一般認識と心理学では大きな隔たりがあり、一概には言えないが、心理学上は肉体のいかなる部位においても「近親者が子供の性的な興奮を目的として触れる行為」を近親相姦と定義している。また、さらに言うならば、近親者が自分の性器を露出して見せたり、自分で触れてみたり、子供の性的な写真を撮るなどといった行為も「近親相姦的行為」とされる。また、その他にも子供に対するセクハラ行為も心理的に似たような苦痛を受ける。そして、もう一つ本人にとって重要な点はそれが「秘密にしておかなくてはならない行為である」ということである。
近親相姦はめったにないと思われているところがあるが、実際には米国保健福祉省などを含む、あらゆる信頼のおけるデータによると近親者からの18歳までの性的ないたずらは少なく見積もっても1割にも上り、実際には相当数に上ると思われている。これほどまでに性的行為が多い事は1980年代半ばまでは認知されておらず、それまでは少なくとも10万件に1件程度だと思われていた。
近親相姦をされた子供は虐待を受けた子供のように罪悪感を内面化するが、そこに羞恥心が加わる事により「自分は悪い事をした」という意識は他のどの虐待の場合よりも強くなる。しかも、父親と娘の関係に多いが「自分は母から父親を奪っている」という意識が強くなり、自分自身を卑下してしまい、その罪悪感から自傷行為に影響を及ぼすとされる。
しかも、その孤立感から家庭にしか居場所がなく、家庭を改善させようとしてしまうため、現実には不可能な「幸せな家庭」という夢を追い求め、悪循環に走ってしまう事が多いとされる。
近親相姦(特に親子)はほぼ間違いなく破滅的な結果をもたらすが、それは自傷行為のみならず「薬物依存」「セックスに関する諸問題」など様々な形で現れる。
性的虐待との関連性
性的虐待に関しても近親相姦同様関連が疑われている。ラッセル(Russell, D)のサンフランシスコの女性に対する調査によると直接的身体的接触だけで38%に上っている。非身体的なものまで含めると54%にもなる。日本においても1998年の「子供の家族の心と健康」調査によると小学生時代に女性の15.6%、男性の5.7%が性的虐待の被害に遭ったという回答が得られており、今まで社会が否定し続けてきた実態が明らかになりつつある。決して現在それが始まったものではなく戦前から性に奔放であったということも多くの人の裏づけによって明らかにされているが、
柳田國男を初めとした多くの学者はその実態に触れることはほぼなかったのである。社会的認知に関する問題が多く取り上げられる理由もこの点にある。
友情関係との関連性
自分を切りつけることは学力に対して優位に働く事もある。これは勉強とは自分自身に対して痛みを加えることと同一であると錯覚している事が多いためとされる。現在日本では学力に対する意識も強く、自傷者本人としては
勉強自体が一種の自傷行為として内面的に理解される事もある。しかしながら学力がそれによって増加したところで、優しい人間の場合、自分自身の学力の増加が自分と他人との差別意識につながり、自分自身を友人を裏切った人間として卑下してしまうことがある。そのため、本人が「あの子の辛さはこんなものじゃない」と認知してしまい自傷行為をしてしまう事もあるとされる。この場合友人を作ることが困難になる場合もある。
性意識との関連性
性意識に関して逸脱している状況が引き金になるケースもあると言われ、
売春などに関係しているケースもあると言われる。実際日本の
風俗嬢が自傷行為をしているケースもある。だが、
レイプなど男性にされたことに対しての心の傷はその性質上表面には出ずらいため自分自身で抱え込んでしまうことが多い上、少女時代にはレイプと言う歪んだ形であってもそれを
愛として認知し、自分自身を痛めつける事でその原体験を再現してしまい、自傷行為をより悪化させてしまうことも多いとされる。また、レイプした人間と付き合うケースもあり、その場合自分自身に対して「バカな人間」という称号を付けてしまい、自尊心をさらに下げてしまう結果になることもある。
遺伝的・生化学的因子
自傷行為の原因として、脳内の
セロトニン不活性も考えられている。しかし、その
生化学的因子は幼少期にトラウマを負った事によっても形成されるとされているため、現時点ではそれが遺伝的因子と同一であるかについての結論は出ていない。
しかし、アルコール中毒などの遺伝的因子は自傷行為をよりひどくする因子であると考えられている。
自傷行為の開始と終焉に関して
リストカットを含む自傷行為が始まるのは
精神的に最も不安定であった時期より数年遅れることが多く、若ければ10歳前後から始まる。自傷行為は、精神的に落ち着けば治まる場合が多く、
年齢と共に自傷行為をする人口は減る。これは、年齢に応じた経験により自己を確立する術を手に入れたからと考えられる。だが、近親者からのひどい性的暴行を加えられたケースなどでは生涯に亘りセラピーが求められるケースもある。
成人の場合はその人は
ACであるとも考えられ、自傷者の中にもそう言っている者もいる。
自傷行為の当初の症状
酒や薬などを用いて始めることもあるが、多くの場合は自然に発症する。当初の感覚は強い憤り、
不安、
パニックなどである。周囲に気持ち悪く思われるため、恥辱感から醜い傷口を隠すケースが当初は多いが、段々と発覚するにつれ隠さず周囲に誇るようになっていく場合もある。しかし、多くの場合では
腕時計や長袖などで傷口を隠すのが普通である。
小学生など、年齢が若い場合は自傷行為についての知識がさほどないためか、自傷行為を刃物以外ですることが多いようである。
自傷行為の常習化
自傷行為をする事によって、一時的に当初の精神的な苦痛は緩和される。しかし、それは自分を傷つけた直後のみなので、また新たな精神的苦痛を負うことで、止めたいと思っていたとしても何度も繰り返してしまい常習化するケースがほとんどである。何度も切っているとその部分の感覚が麻痺してくる上、血を見る事に慣れてくるため、常習化はさらに進む。また、夏服になると手首は目立つと判断されるためリストカットよりもアームカットを多くする事も多い。
剃刀や
カッターナイフなど鋭利な刃物を使う事が多いと一般には思われているようであるが、鋭利な刃物は深く切るにはいいが傷口があまり大きくならない傾向があるため、実際にはより激しい傷を負わせるために
鋏や
包丁など刃先が比較的ギザギザした物を使う事も多い。
自傷行為のその後
切る時はただ切りたいという衝動に駆られるだけで切ることが多いが、その汚い皮膚の傷跡や
ケロイドを後で見て醜く思い自分自身を卑下してしまう事もある。自傷行為は本人にとって重要な位置を占めているため無理にやめさせようとしてはならない。だがもし自傷行為を止めると言うのであれば、
病院に入院することや
カウンセリングを受ける事などの方法が考えられる。だがこれには、まず何よりも本人の「止めたい」という強い
意志が必要であり、必ずしもうまくいくわけではない。病院に入院する事はリストカットを一時的にやめさせるには効果はあるが、一時的なものであるため、常習化を止める事に対しては必ずしも効果があるとは言い難い。さらに、リストカッターは自尊心が弱いため、強い意志をもてない自分を余計に卑下してしまうことがあるため、安易に勧めるべきではなく本人の意志がまず第一であろう。実際、無理に連れて行ったり、騙して連れて行くこともあるが、これは本人にとっては悪影響であろう。さらに、医師やカウンセラーがその行為を理解してくれるとも限らず、その場合、さらなる心理的ストレスを負い、よりひどい自傷行為へと走るケースもあるため、注意が必要である。
人間関係が不安定になる事もあり、一時的に引きこもりのような状況になることもあるが、基本的には人との接触を望んでいるため一時的なものであることが多い。しかしながら、対人関係はその後においても不安定である事が多い。
回復期
自傷行為はある程度経つとその精神的なストレスを言葉で表現する事が多くなってくる。もともとリストカッターは自分自身の抑圧されたストレスを表現できなかった者に多いため、周囲の環境によっては回復する事も少なからずある。また、結婚などにより収まる事もある。しかしながら、愛情と言うものに関してうまく認識できない者も多いため、離婚してしまい再び自傷行為をしてしまう事もある。
自傷行為をする人の性格
一概にはいえないが、自傷行為をする人は我慢強く、自己に批判的である傾向があるとされる。また、リストカッターは非常に自尊感情が低い。コミュニケーション能力が欠如し、いつもぼんやりとしていて、虚ろで平板な人が最も多いが、多弁なだけで意味を成さない事ばかりを言い、偽りの自己を作り出し、他人をからかおうとする歪んだ精神構造の者もいる。また、無関係な話をすることで話をはぐらかそうとする誠実でない者もいる。
リストカッターを含む自傷行為をする人の多くは、学力が部門別に極端に能力差があることがほとんどである。アタッチメントを形成する能力に欠陥がある一方で、他者から一方的にアタッチメントを受ける能力には長けているケースが多い。だが、リストカッターは過去の体験から、他者を信用できないことがほとんどである。そのため他者を信用できない自分に対して自罰的でありながらも、幼少期にまつわることが原因であるため、非常にナイーブで幼い神経をし精神的にバランスが悪く「自分さえいなければいい」と思っていることが多い。
自傷行為に対する偏見
自傷行為は、以前は
自殺行為とみなされてしまうほど理解のない症状であった。病院に行ってもその行為が理解できない医者が大半であり、病院側も対処に困るケースが大半であった。
だがやがて自傷行為が広まるにつれ、その行為は一種の病気であり、自傷行為をする者は精神病者であるとみなされるようになった。非常に否定的な注目ではあるが、以前より理解度は上がったのは事実である。しかしその後においても、その心の内の実情を知るものは少なく、精神病者として社会的に偏見を受けることが多い。一般に、自傷行為は理解されにくく、その行為に及んでいるというだけで軽蔑視される。
また、フロイト系の解釈をする医師からは、その行為は単なる甘えであると見なされてしまう事もある。また、周囲から見るとこの行動はマゾヒスト的な発想に基づくものと見られてしまう事もある。これらの偏見は本人が自分自身のアイデンティティとして認知してしまう事もあり、自傷者自身がそう言ってしまうこともある。
だが、実際には自傷行為はリストカッターにとっては厳しい現実に対する一種の自己防衛手段なのであり、そのような偏見は病院のスタッフや周囲が自傷行為をする人間に対しての理解が少ないために起こるものであろう。実際に自傷行為をする者にはその家族構成や周囲の環境に何らかの異常が認められる事も多く、実は家族の構成員や周囲の人間の中では最も正常な人間であるともみなされる事も多い。だが、それらの人間には表面上は異常とみなされるような行動が少ないため、実際には自傷行為をする人間の多くは自分自身が最も異常であると考えてしまう事も多い。しかしながら、自傷行為は社会的には許容されないため、なるべくそれ以外の手段をとることが適切ではあると思われる。だがそのためには自傷行為をする人間の心の闇について、周囲のはっきりとした理解が必要であろう。
自傷者から見た他人意識
自傷者から見た場合、他人はただ生きているだけの人形的な人間であると考えられてしまう事がある。これは、自傷者はかなりナイーブな神経をしており、他人は人間の心に対して何も理解してくれないという意識が強いからとされる。実際、現代の日本では少子化の影響からか他人に対する共感意識が薄く、他人に対して児童期から差別的意識を持ってしまう事が多いため、その他人からの偏見を内面化してしまう自傷者も多く、この意識に関する改善は困難であると考えられる。また、実際に自傷者は精神異常者として扱われる事が多く、それに関する理解が足りないのも事実であり、自傷者の他人から孤立した孤独意識は非常に強く、他人に対して絶望を抱く事が多い。一般に自傷者は「自分は気持ち悪い人間」と自己認識していることが多い。
自傷症の分類
自傷症は非解離性と解離性に分類され、代表的なものとしては以下のような原因が考えられているが、全てのケースが当てはまるわけではなく、それぞれが複合した形のものもある。
原因としてフロイトに関係する精神分析の解釈が用いられることもあるが、それ以外の解釈も可能であるため実際にははっきりしない。例えば、フロイト派の一派の精神分析学的自我心理学のマーガレット・マーラーに関係する解釈によると、自傷行為は幼少期(1~3歳前後)の頃の母親との分離不安が原因となり、自己存在の確認の一時的な手段として用いられると主張される。これには実際正しい部分も多いと思われるが、実際の自傷行為には様々なパターンがあり、これに特定することは困難であると思われる。また、自傷行為者は親に対して通常の人間の感じるようないたわりを感じていないため、その親子像は親子が入れ替わったような逆依存の形に歪んでいるので、そういった親子の愛情に関する言述のみで安易に言述をするのは、自傷行為者にとっては不自然であろう。この単純判断は自傷行為にショックを受け、投薬治療に専念させようとする医師がよく用いるものであるが、これは心理的な問題を棚上げにしてしまうことがあり、これに偏った判断は本人にとって悪影響をもたらす可能性があるので、注意が必要である。
非解離性自傷症
現実感を伴う痛みを目的とするものである。
意識や
人格にまとまりがあるため比較的理解しやすい。しかしそのため自傷行為に関する論述がこれに偏る傾向がある。解離性のものより事後はいいが、自傷症は全体的に精神病理学的な問題を抱えていることを忘れてはならない。いわゆる二次利得を得るためのものであるが、解離性自傷症と併発しているケースも多い。
- 周囲に心配されない、見てもらえないといった見捨てられ感を打破したいがために、わざと人目を引く傷をつけ心配してもらいたい、というわがままな欲求を満たすために行う。わざととは言うが、この動機は無意識的なもので本人ははっきりとは理解していない。解離性自傷症とはほぼ対極に位置するもので、傷口を当初から隠そうとせず見せびらかすケースがこの場合ほとんどである。一時期はこの説が有力であり、自傷行為は他者(例えば両親)との意思疎通の一種であると考えられてきた。しかしながら、意思疎通能力を高めても、何人かについては成功を収めたものの、多くの患者は自傷行為を続けたため、研究者たちは自傷行為にはより複雑な原因があると判断し、より異なる原因があるであろうという論が現在有力である。
- 恋人や家族などを事故で失った場合に行う。この場合、自傷行為は、本人なりの葬儀のあり方であるとされる。家族や恋人との接点が薄い場合、墓参りに行こうとしても行けず、自分の手首や腕を切って血を流すことで、恋人や家族の死の葬儀の儀式として行うとされる。この場合、仕事や個人的な事情などで当初は悲しむ余裕すらなかった場合が多く、一年後など後になって起こる事が多いとされる。
- 自分という存在の輪郭を再確認し、自己解体感を抑える際に行う。これは周囲に対して見捨てられ感を抱いた場合、「自分という存在はこの世界に必要ないのかも知れない」といった考えを否定するためである。また、虐待を受けたことなどで、自分の存在をその苦痛に投影するケースもこれに当たる。痛み、流れる血などを見て自己の生命を再確認し、安心できることから行われる。
- 自分が非常に危険な状況に陥った時に、痛み自体に救いを求める際に行う。これは自殺を模倣する事で、自分自身の自殺したい願望を抑えるためとも言われる。例えば、仕事上の失敗などで「もうこんな現実から逃げたい」と思っているにもかかわらず、死ぬ事はためらわれる場合などがこれに当たる。
- 自身の攻撃衝動を外に向ける事が出来ない者(女性に多い)が、その衝動を内に向けるときに行う。例えば「親や周囲の人間に愛されない自分の存在が許せない」と認識した場合に行ってしまうものがこれである。またこれは、自分を理解しない周囲に対する怒りを、手首をそれらの周囲に見立てて人格化し攻撃しているとも解釈できる。
- 何か非常に困難な事象にぶつかった場合、自分を切ることによってその現実に一時的に対処する際に用いる。例えば、両親の不和や自分に対する虐待などで「親を愛することが出来ない自分の存在なんかいらない」と自身が認識した場合や、自分のことが原因で友情にひびが入った場合「自分なんかいなければよかった」と思ってしまうケースなどがこれに当たる。この場合、罰せられることによって「許し」を乞いているとも考えられる。しかしながら、それによって本当に「許し」が得られるわけでもなく、常習化が進んでしまうとされる。現実からの逃避手段であるため、解離性自傷症と併発していることも多いとされ、むしろ中間的なケースとされる。
解離性自傷症
切ることによる自己解体感と思考不能感を目的とするものである。非解離性より医学的に見れば重症なことが多く、精神的な
トランス状態にあることが多い。常識的な感性で表現しづらいため、文章化しても患っていなければ理解しがたいことが多い。これは、幼少期にひどい虐待や
レイプなどの原体験があり、それから来る恥辱感が自らの内で何度も繰り返されるうちに、それが全面的になったもののようである。これは
解離性障害であるとも考えられる。自傷症としては最も危険なもので、自殺の危険性もある。
PTSDともみなされる。
- 自分がやっている事を他人の目で見る事で自分自身を乖離させる手段として用いる。自分で自分を切りつける事で、通常の葛藤している自分を信じられない自分にする事で、その自分自身を他人のようにして、その自分を自分自身として否定し、そうしていない自分をもう一人の自分自身として認識することによって、葛藤ごと葛藤しているその自分自身を否定し精神の安定を得るのである。解離性同一性障害との関連も疑われる。
- 過去の体験や記憶を自分の中から失わせる手段として用いる。本人の中で「親殺し」の葛藤が起こることもある。その状況は「真っ白」とも表現される。これは、自分自身の精神的な痛みを、肉体的な痛みによって超越させ、思考をそれによって破壊し、自己を内へと退行させているのである。つまり、自分自身の肉体的な痛み以外に自分を精神的に守ってくれる存在がいないと感じているのである。
リストカッターに対する接し方
リストカットをする者はまず
境界性人格障害などの
人格障害である場合が多いので、接し方としてはそれらの
人格障害に対する接し方に倣う。
リストカットのみにおいて言えば、行為自体を責める事は絶対にしてはならない。また、無理やり止めさせようとするのも避けるべきである。このような周囲の行為、態度はリストカッターに対し過度のストレスとなり、更なるリストカットに走らせる結果になる場合が多い。ひどければ自殺にまで至ることもある。リストカッターの中で自傷行為は自分の精神を安定させる有効な方法となっているので、それに代わるものを考えるべきである。
症状が最もひどい時はヒステリーを起こして接触さえ困難になるため、特に注意が必要である。
リストカッターに対する話し方
リストカットをする人は、「痛み」というものを一時的に感じない場合が多い。もしくは、その「痛み」によって気分をまぎらわせようとしている。そして、リストカットをして得になるものはない、とリストカッター自分自身でも分かっている。よって「痛いでしょう?そうしたい気持ちは分からないわけじゃないよ。でも、リストカットをして最後に困るのは誰?」といった台詞は気分を逆撫でし、自尊心の低いリストカッターにとっては自分の価値観をさらに下げてしまう結果になり、余計ひどくなるためタブーである。
「辛いんだろうけど、そんなことしなくても私はそばにいるよ、だからゆっくり治して行きましょう」など、リストカッターの絶望に共感を交えつつ注意喚起し、行為を減らして行くのが良い方法である。
しかし前述の通りリストカッターには境界性人格障害などの人格障害である場合が多いので、時として相談者やパートナーや治療者もが自分とリストカッターの境界を失って共依存に陥ったり精神に大きなダメージを受けるなどし、最悪の場合は自殺に追い込まれるリスクがあるのも事実である。したがって相手をリストカッターと認識して接するには正しい知識と相当の覚悟が必要であり、決して中途半端な気持ちや興味本位で話しかけてはいけない。またなるべく尊大な態度を見せてはいけない。
治療法
認知行動療法が最も一般的で、
薬物療法と併せて行う事もあるが、治療は非常に困難である。
行動療法、
家族療法などを用いる事もある。薬としては
ジプレキサや
リスパダールなどが用いられる。
睡眠薬として
ハルシオンや
ロヒプノールを用いる事も多い。本人は周囲の常識を超えた人生を送っている事が多いため、
ドラマとして周囲に認知される事も多いが、実際には自傷症に関する実際の情報を与える事が本人にとって大切である。
一時的な対処法
リストカットに対する一時的な対処法として
- 赤いペンで手首に線を引く。切ったつもりになって満足する。
- 古い電話帳を引きちぎったり、枕などを思いっきり殴る。
- 1時間以上その場で固まり、ぼーっと何もしない。
などが挙げられる。
ただ、このような場合は本人がある程度冷静である必要がある。その為、記憶や意識が無くなってしまうほどの強い衝動によって行為に及んだ場合には有効ではない。
ファッションとしてのリストカット
現在において、
ファッション感覚でリストカットやその真似事を行う人々が増えつつあり、これらの行為は真剣に悩んでいるリストカッターからは攻撃の対象となる場合がある。リストカッターに余分なストレスを与えないよう、これらの情報はなるだけ遠ざけるべきである。ファッションを演じる自傷とはいえ「誰かを傷つけている」という事を忘れてはならない。
なお、自傷症とは無意識的なものであるため、これは自傷症には含まれない。
関連書籍(参考文献)
- 卒業式まで死にません(南条あや)ISBN 4-10-142021-1
- EXIT (雨宮処凛) ISBN 4104638013
- 夜回り先生(水谷修)ISBN 4-921132-54-2
- 自傷する少女(スティーブン・レベンクロン)ISBN 4-08-760361
- CUTTING リストカットする少女たち(スティーブン・レベンクロン)ISBN 4-08-760479-9
- ライフ (すえのぶけいこ) ISBN 4063414337
- 生きちゃってるし、死なないし (今一生)ISBN 4-7949-6499-4
- 魂の声 リストカットの少女たち 私も『リスカ』だった(小国綾子)ISBN 4062129205
主題ではないが自傷行為が出てくる書籍
リストカットを扱ったテレビドラマ
有名な自傷行為者
関連項目
外部リンク
心理学
Selbstverletzendes Verhalten | Self-harm | Memvundanta konduto | Automutilation | פגיעה עצמית | Savižala | Samookaleczenie | Självskadebeteende