翼平面形(よくへいめんけい)とは、翼を真上から見たかたちのこと。翼に言及していることが明らかな文脈では単に平面形ともいう。この項では、さまざまな翼平面形とその特徴・採用する理由などについて解説する。
代表的な翼平面形
- 楕円翼 : 翼弦長の翼幅に対する変化が楕円関数に従うような平面形。厳密な楕円形である必要は無い。翼端で発生する翼端渦に起因する誘導抵抗は、理論的には楕円翼において最小になるため、かつては楕円翼が採用されることがあった。楕円翼のこの効果は、適切な比率に設計されたテーパー翼(後述)で大差無く実現可能とされている。曲線形状の翼は生産性に劣ったりコストが増大したりするため、現在では楕円翼はほとんど採用されない。第二次世界大戦ごろの航空機に多くみられ、スピットファイアやハインケル He 111、そのハインケルと技術提携していた愛知航空機の九九式艦上爆撃機などが楕円翼を採用していた。
- 矩形翼 : 平面形が単純な長方形である翼。第一次世界大戦ごろまでの複葉機に多かった。現代では、構造が簡単で製造しやすいことから、廉価な小型機にしばしば適用される。矩形翼は、失速状態付近において翼付け根に近いところから翼上面の流れが剥離し始める傾向がある。これにより、翼端付近に設けられているエルロン上の気流は翼全体が失速するまで剥離せず、最後まで操縦が可能となるので利点といえる。一方、欠点としては同質量の楕円翼やテーパ翼(後述)に比べ揚抗比が悪いことや、同一翼面積のテーパ翼に比べて翼根にかかるモーメントが大きく補強に余分な質量が必要となることなどが挙げられる。
- テーパー翼 : 翼端に行くに従い翼弦長が線形に変化(一般には減少)する翼平面形状をテーパー翼と呼び、直線先細翼とも呼ばれる。構造重量、構造強度、揚力分布、製造効率の観点から、楕円翼に代替する翼平面形状として広く適用されている。失速状態に近付くと、翼端から流れが剥離する特性がある。揚力に起因する翼付け根に掛かるモーメントを減少させるのに都合が良く、たとえば、海鳥の平面形は楕円翼ではなくテーパー翼となっている。
デルタ翼 : ギリシャ文字のΔ(デルタ)と似た平面型を持つ翼をデルタ翼(三角翼)と呼ぶ。低アスペクト比、低速域での実用性を考慮すると一般的に低翼面荷重、低速巡航時は低揚抗比となりやすい。翼厚に対して翼弦が長く前縁後退角を大きくしても構造強度が高く取れることから一般には高亜音速から超音速飛行に向く。大迎え角時には翼上面に大規模な渦が発生し、大きな抗力と引き替えに大揚力を得ることが可能。戦闘機として機体をコンパクトにまとめやすく、ミラージュIII、A-4、MiG-21(尾翼付きデルタ)等かつて盛んに採用された。ダブルデルタ(後述)、オージー(後述)、クリップトデルタ(台形)などへと発展していった。
- タブルデルタ翼 : 高速時の特性を生かしつつ低速時の特性を改善するために大小二つの前縁後退角を持たせたデルタ翼をダブルデルタ翼と呼ぶ。スウェーデンの戦闘機 SAAB JA35 ドラケンが初めて実用化した。他にはスペースシャトルのオービタ(無尾翼ダブルデルタ)、Tu-144(カナード付きダブルデルタ)などの例がある。
- オージー翼 : オージー翼はデルタ翼の前縁がへこんだ曲線を持つものをいう。コンコルドが採用した翼平面形である。デルタ翼の低速・大迎角時における特性を改善するために用いられる。
後退角効果
後退翼
翼を左右にまっすぐ伸ばすのではなく、後退角か前進角を持たせることで、翼上面に超音速領域が生ずる
マッハ数(臨界マッハ数)を高めることができる。後退角は翼弦長の25%をつないだ線と機体の左右軸とのなす角度で定義される。
後退角をつけると、翼型に平行な方向を流れる空気の速さは、理論上、機体の速さに後退角の余弦を乗じた程度に減少させることができる。その分衝撃波の発生を遅らせることができ高亜音速~遷音速領域での抵抗減少に役立つ。ただし、実際の現象から経験則を導き出すと、翼型に平行な方向を流れる空気の速さは、機体の速さに後退角の余弦の平方根を乗じた程度となることが判っている。
後退翼には以下のような欠点もある:
- 構造や強度の面で直線翼よりも難しくなること
- 同質量の翼で比較すると、後退角がつく分翼幅が短くなってアスペクト比が低下し、揚抗比も悪化すること
- 速度の低い領域で翼端失速などを起こしやすくなること
- 翼端失速が生じた時、機体全体の揚力の着力点が前方に移動することにより縦安定性が変化し、最悪縦不安定状態になること
前述のデルタ翼やその派生平面形は、テーパー翼を後退させただけの後退翼に比べ、1. の構造や強度の点で優れている。2. の例としては、
ボーイングのジェット
旅客機は
727等の古い機種よりも
767等の新しい機種の方が後退角が小さいことが挙げられる。
翼型の改良等により高速飛行中の抗力を増大させることなく後退角を減少させ、アスペクト比を増して揚抗比を上げることで効率(燃費)を向上させている。
後退翼は第二次世界大戦当時のドイツで研究され、採用は1950年代の高速機からであるが、空気力学的効果以外の目的で後退翼になった航空機もある。下方視界の確保のためや、翼の揚力の中心と機体重心と機体の構造の兼ね合いで後退翼になった機体もある。Me 262は後退翼をもっているが、搭載エンジンの変更に対する調整から、後退翼が採用された。
前進翼
後ろでなく前へと角度を付けることでも後退翼と類似の効果を得ることができ、これは前進翼と呼ばれる。負の上反角効果となって本質的に不安定となるが、その分機動性が高まることから、敢えて不安定な機体を
フライ・バイ・ワイヤにより制御して飛行させることで戦闘機の性能向上に利用できると考えられた。翼端からの失速が起きにくいことも利点とされる。一方で、揚力と
迎え角が相互に増加しつづけ、ついにはある速度で翼を破壊してしまうダイヴァージェンス(発散)という現象が起き、これに耐えうる翼構造は重量が大きくなりすぎるために実現は困難だった。
第二次世界大戦で活躍した
中島飛行機製日本陸軍戦闘機(
九七式戦闘機、
一式戦闘機、
二式単座戦闘機、
四式戦闘機)も運動性の向上のため前進翼を採用したが、これらは前縁を直線にしたタイプであった。複合材料技術の発達に伴い、空力弾性テーラリングと呼ばれる成形技術を利用することで重量増加ペナルティを小さく留めたのが
NASAの実験機
X-29である。他にロシアのスホーイが開発した
Su-47も前進翼を採用している。
可変翼
高速飛行時に要求される高後退角と、離着陸時や巡航時に望ましい低後退角を両立するための一手段として、付け根を軸として左右の各主翼を前後に動かせるような機構を備える機体がある。可変後退翼や可変平面形 (VG; Variable Geometry) 翼などと呼ばれるこのシステムは固定翼に比べて大きなコストが掛かるため、軍用機以外での採用はほとんどない。ベルX-5・F-14・トーネード・MiG-23・Tu-160・B-1などが有名である。
斜め翼
可変翼の一種に斜め翼 (oblique wing) がある。これは主翼全体を中心の一点を軸として斜めにある程度回転させるもので、左右の片側は後退翼・もう一方は前進翼となる。かつてNASAがAD-1(エイムズ(Ames)ドライデン(Dryden)-1)という実験機で飛行試験を行った(写真。
#外部リンク参照)。
関連項目
外部リンク
航空工学
Planform