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漢方かんぽう)、漢方医学かんぽういがく)とは 伝統中国医学の系譜で、日本では『傷寒論』(しょうかんろん)と『金匱要略』(きんきようりゃく)と呼ばれる古典の治療方法に基づいている。現在は漢方薬による治療のみを指すことが多いが、元来は鍼灸按摩食養生なども含む。

漢方という語は江戸時代にヨーロッパの医学(蘭方医学)が伝わり始めた頃に、そちらと区別するために使われるようになった。また、明治時代以降は、皇方皇漢方和方和漢方とも呼ばれた。

診察法


概説

症状を含めたその患者の状態を(しょう)と呼び、証によって治療法を選択する。証を得るためには、四診を行うだけではなく、患者を医師の五感でよく観察することがまず必要である。

西洋医学では、患者の徴候から疾患を特定することを「診断」と呼び、これに基づいて疾患に応じた治療を行う。しかし漢方医学では、治療法を決定すること自体が最終的な証となる。例えば葛根湯が最適な症例は葛根湯証であるという。

証の分類と治療法の選択について、以下のようにさまざまな理論化がなされた。

気血水理論による診察法

例えば気血水理論では、

  • (き)
    人間の体の中を巡っている仮想的な「生命エネルギー」のようなもの。
  • (けつ)
    西洋医学でいうところの血液ではない。
  • (すい)
    西洋医学でいうところのリンパ液ではない。

の3つの流れをバランスよく滞りない状態にするのが治療目標になる。

本ページ「気血水」の項、参照のこと。

陰陽五行理論による診察法
また、陰陽五行説も理論化に用いられた。

四診

治療法を決定するためには四診(望、聞、問、切)を行う。
  • 望診(ぼうしん)
    医師の肉眼による観察。体格、顔色、舌の状態等。特に舌の観察をもとにした診断を舌診(ぜっしん)と呼び重要視される。
  • 聞診(ぶんしん)
    医師の聴覚嗅覚による観察。患者の声、の音、排泄物の臭いなどから診断する。
  • 問診(もんしん)
    漢方独自の概念はあるものの、基本的には西洋医学と同様に家族歴既往歴現病歴愁訴を問う。西洋医学よりも詳しく、一見無関係な質問も行い、全身状態の把握に努める。
  • 切診(せっしん)
    医師の手を直接患者に触れて診察する方法。脈の状態から診断する脈診(みゃくしん)と腹の状態から診断する腹診(ふくしん)が特に重要である。

陰陽

陰陽は様々な文脈で用いられた。例えば『傷寒論』では病状を陽と陰に分類し、それを更に三分類する。これを三陰三陽といい、太陽病少陽病陽明病太陰病少陰病厥陰病がそれらである。

大略病状が活動的で、表に現れる場合を「陽」と表現し、逆の場合を「陰」と表現する。

五行

傷寒論』では分類用語であった陰陽は、宗代になると哲学的な文脈でも用いられた。同時に五行説が取り入れられるようになった。五行五臓(西洋医学の臓器とは異なる概念である)との対応は次のように考えられた。
  • 木 - 肝
  • 火 - 心
  • 土 - 脾
  • 金 - 肺
  • 水 - 腎

表裏と虚実

実は体力の充実している状態、虚は体力の衰えている状態であるが、体のどこが虚しているかが重要である。
  • 表実証 - 悪寒、頭痛、発熱があっても発汗しない
  • 表虚証 - 悪寒、頭痛、肩こりがあり、脈が浮弱で、発汗しやすい
  • 裏実証 - 腹部が充満し、便秘・口渇があり、脈が沈で力がある
  • 裏虚証 - 腹部が力なく、食なく、下痢・嘔吐しやすく、脈が沈で弱い

気血水

気血水説は古医方を唱えた吉益東洞の考えを、長男の吉益南涯が敷衍した理論である。
  • 気滞証 (きたいしょう)
    「気」の鬱滞が病気を起こすという発想は古くからみられ、後藤艮山によって大いに唱えられた。血も水も気によって動かされるので、気の鬱滞は血、水の鬱滞をもたらす。
  • 瘀血証(おけつしょう)
    俗に「ふる血」と呼ばれる状態で「血」と呼ばれるものが停滞した状態である。
  • 痰飲証(たんいんしょう)
    痰は水、すなわち喀痰を含んだ体液全般を指す。狭義には胃内の停水をいう。

  • この項の参考資料
    大塚敬節 『漢方医学』 創元社(大阪) ISBN 4-422-41110-1

西洋医学との比較

漢方医学のこれらの理論は、のちに西洋医学から「非還元主義的である」「非科学的である」「あんなものは医学ではない」などと批判されることとなる。

しかし、漢方医学はもともと非還元主義的な、直感主義的な診察を選り好んで採用してきたのではなく、漢方医学が発達を遂げた古代から中世までの時代においては、そうした診察法しか方法論的にありえなかった、という反論がなされている。

また逆に、西洋医学に基礎をおく現代の医療が、「還元主義的な医療」を念頭に置くあまり臨床検査データに頼りすぎ、それゆえにかえって見えなくなる領域、治せなくなる病症がある状況を鑑みれば、非還元主義的な漢方医療が現代においては、それに対する欠くべからざる補完的役割を果たしていることが指摘される。

さらに「患者を医師の五感でよく観察すべし」という診察法は、どのような医学を修めた医師にとっても共通の指針であるともいえよう。

具体的な処方


歴史


中国大陸

古代
代の甲骨文などには「医」「薬」といった文字は見当たらず、まだ人々のあいだに医療という概念がなかったものと思われるが、やがて巫祝(ふしゅく)と呼ばれる、集落の神事とともに人々の病も癒すシャーマン的存在があらわれることになる。最初の医療は、今でいう「占い」「魔よけ」にあたるものが主流であったが、やがてそこへ生薬などの「薬物療法」や、鍼灸の原初的段階が組み入れられていく。それとともに巫祝も、巫を専門とする神官的な存在と、医を専門とする医師的な存在に別れていったと考えられている。

こうして秦以前にも扁鵲(へんじゃく)などの名医の存在が数々の記録に残っており、たとえば扁鵲は六不治の一つとして「巫を信じて医を信じざればすなわち不治」をかかげ、すでにこの時代に医者とシャーマン的な存在、すなわち医学と宗教ははっきり分離していたことをうかがわせる。

中古
前漢(紀元前202年〜紀元8年)の時代には『黄帝内経』という現在知られている最古の医書が編纂されている。後漢(25年〜220年)の時代に張仲景により『傷寒論』『金匱要略』が編纂される。『傷寒論』は現在医学でのインフルエンザと推測される急性熱性疾患をモデルに病勢の進行段階と治療法を論じた。伝統中国医学は張仲景によって初めて理論的に体系化されたともいわれる。

中世
時代(960年〜1367年)には金元四大家と呼ばれた劉完素張子和李東垣朱丹渓らが現われる。『黄帝内経』の理論を元に六淫理論、四傷理論といった新しい理論が表された。一方南宋では「太平恵民局」という公立の薬局が設けられて医者や官民に良質な薬を提供するシステムが構築され、宋慈が『洗冤集録』という世界初の本格的な法医学書を著しており、こうした成果は南宋を滅ぼした元王朝にも継承された。

また、の時代に医師の李時珍本草綱目を著して薬学本草学の分野でも大きな進歩があった。

日本

古代~中古
日本には朝鮮半島を通じて、あるいは遣隋使遣唐使によって中国から伝えられた。982年には現存する日本最古の医書『医心方』が丹波康頼によって編纂された。13世紀頃には禅宗が医学の担い手となった。

中世
しかし、日本で現在の漢方医学といわれるものが発展するのは16世紀になってからである。に留学した田代三喜は金元医学を学んだ。その弟子であり織田信長に重用された曲直瀬道三は金元医学を解説した『啓廸集』を著わし、また医学舎「啓廸院」を創り多くの弟子を教えた。金元医学を元にした医学はのちに後世派(ごせいは)と呼ばれる。この時代に医学と宗教の分離が行われた。

近世
17世紀には名古屋玄医が『傷寒論』への回帰を訴えた。後藤艮山香川修庵山脇東洋吉益東洞らがこれに続いた。この流れは古方派(こほうは)と呼ばれる。後世派が陰陽理論や五行理論といった抽象的な理論に基づくのに対し、古方派は実証的に『傷寒論』を解釈することに務めた。しかし古方派の実証主義が結果的には西洋医学流入に伴い漢方医学が衰退する一因となる。

近代
明治以降は西洋医学を学び医師免許を取得しなければ医師と名乗ることが出来なくなった。現在でもこの規程は有効であり、純粋の漢方医は日本には存在しない。ここに至り遂に漢方は壊滅の危機に瀕したが、1910年に和田啓十郎が『医界之鉄椎』、その弟子の湯本求眞が『皇漢医学』(1928年)を著わし漢方医学の復権を訴え、西洋医学を学んだ医師が漢方も学び実践する形で生き長らえた。

現代
1950年には日本東洋医学学会が発足した。1976年には漢方方剤のエキス剤が健康保険適用になり、広く用いられるようになった。医学部で西洋医学を学んだ医師たちのあいだでも、かなりの人々が漢方医学に関心や理解を示すようになったが、陰陽五行説など確固たる漢方理論に基づいて漢方医学を理解している人々は、年現在、残念ながらまだ一握りと言わなくてはならない。

関連項目


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