文化人類学(ぶんかじんるいがく)は、社会科学のひとつである、人類学の一分野である。人類学は一般に人類の進化や生物学的側面を研究する自然人類学とその社会的・文化的側面を研究する文化人類学に大別される。本来、文化人類学と言う呼称はアメリカにおいて用いられてきたもので、イギリスおよび多くのヨーロッパ諸国では社会人類学の名称が用いられている。両者の間には歴史的な相違が存在していたが、現在では研究内容がほぼ収斂し同じ分野の異称であると考えて差し支えない。またヨーロッパ諸国や日本においては民族学(Ethnology, Ethnologie)の名称も用いられている(民族学を一分野とする場合も多い)。また民俗学(Folklore)は隣接分野である。
広く捉えると文化人類学は、人類を進化の過程によって形作られてきた生物学的側面から捉える自然人類学に対して、自然とは対比される文化という側面から研究しようとする学問分野である。ここで言う文化とは進化の過程を経て形成される遺伝形質ではなく、人類が後天的に学習した行動パターンや言語、人工物の総体を指す。このような広義の文化概念をとった場合、文化人類学には言語学と考古学が含まれることがあり、アメリカではこのような広義のくくり方が一般的である。
これに対して狭い意味では、民族・社会間の文化や社会構造の比較研究として定義される。社会人類学や民族学というラベルはまさにこの狭く定義された文化人類学と同義である。ブロニスロウ・マリノフスキー以後、この分野では数ヶ月から数年に渡って研究対象となる社会に滞在し、メンバーの一員として生活するフィールドワーク(参与観察)の手法を用いることが一般的となった。
マリノフスキーとラドクリフ=ブラウンはともにイギリスを中心にして活躍したため(もっとも両者はともにアメリカで教鞭をとっている)、第二次大戦後は彼らの後を受けたイギリス社会人類学の伝統が人類学の本流として認識されるようになった。しかし、各国の人類学にはこれとは異なる伝統が存在しており、その中でもアメリカとフランスの伝統はしばしば強い影響力を持った。
特にアメリカには、フランツ・ボアズを中心とした独特の学派が受け継がれてきた。この学派では社会関係と社会構造に注目する社会人類学よりもより包含的なアプローチを取り、人間の慣習や社会制度、心理的傾向性、言語、物質文化と言った多様な要素からなる広義の文化に焦点を当てた。 この学派は、この幅広い文化の概念を用いて各民族(具体的には北米原住民)の固有文化を記述することに専念し、社会人類学のような理論化に対しては批判的であった。こうした姿勢は乏しい資料を基に自民族中心主義的な理論化を行った進化主義への反発から来ていると言われ、ボアズらはこのような進化主義的立場に抗してそれぞれの文化はそれぞれの価値において記述・評価されるべしであると言う文化相対主義を主張した。このように理論を排除する立場をとったため、アメリカ文化人類学派はイギリス社会人類学に対して理論的な発展では後れを取ったが、一方で社会関係にこだわらない包括的な立場を取り、言語や心理過程、地理的範疇や生態系にも焦点を当てたために、後に心理人類学(文化とパーソナリティ論)、生態人類学(新進化主義)、といった数多くの下位分野を生み出すことになった。
日本では、イギリスに留学して社会人類学を修めた中根千枝を招いた東京大学や都立大学(現首都大学東京)においてイギリス流の社会人類学が受容された。一方、関西では生態学者今西錦司の弟子である梅棹忠夫を中心とした京都大学人文科学研究所がアジア・アフリカ各地に探検隊を派遣して多くの研究を行った。その成果は大阪万国博覧会(万博)におけるメイン館の展示となり、その後同跡地には国立民族学博物館(大阪府吹田市の万博記念公園)が設立されて日本における文化人類学の研究拠点となった。生態学者今西錦司の影響下に発展した京都の人類学は霊長類学との協力が盛んで理系の人材が多く、そのため環境利用や生業、技術、進化など人類社会の生態学的側面に焦点を当てた優れた研究を行ってきた。 また、梅棹忠夫が50年代に著した文明の生態史観は人類学だけでなく、当時の日本の論壇に大きな衝撃を与えた。
文化人類学は様々な国でその国独自の事情を反映して多様に発展してきた。イギリスにおいては社会人類学、アメリカにおいては総合的な文化人類学、日本では生態人類学がそれぞれ各国の個性を代表していると言えよう。しかし、近年は交流の活発化に伴ってかつてのような国ごとの個性はそれぞれのフィールドごとに再編されつつあり、国による違いは徐々になくなりつつある。 また70年代以降、文化人類学がおもな対象としてきた発展途上国社会で急激に開発が進み(ポストコロニアル)、新たな社会問題が発生するようになるに伴って学問の性格も徐々に変化してきた。特に80年代以降は、開発、医療、エイズ、環境問題、教育、観光などの社会問題を扱う応用人類学の分野が急成長し、急激に多様化が進みつつある。さらに、エドワード・サイードのオリエンタリズムやポストモダンの潮流に関連して、文化人類学者が異文化を「書く」とはどういうことなのか、という学問の根幹に関わる問題も提起された。同様に人類学的行為の政治性や方法論・理念(文化相対主義、社会構築主義など)についての議論も盛んに行なわれている。
文化(社会)人類学は学問領域が広い為に関連領域も多い。関連分野の主要な学者を列挙する。
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