組曲『惑星』(The Planets)Op.32 は、イギリスの作曲家、グスターヴ・ホルストの代表的な管弦楽作品である。この組曲は7つの楽章から成り、それぞれにローマ神話に登場する神々にも相当する惑星の名が付けられている。
構成
- 火星、戦争をもたらす者 (Mars, the Bringer of War)
- 金星、平和をもたらす者 (Venus, the Bringer of Peace)
- 水星、翼のある使者 (Mercury, the Winged Messenger)
- 木星、快楽をもたらす者 (Jupiter, the Bringer of Jollity)
- 土星、老いをもたらす者 (Saturn, the Bringer of Old Age)
- 天王星、魔術師 (Uranus, the Magician)
- 海王星、神秘主義者 (Neptune, the Mystic)
この作品は、(天文学ではなく)占星術から着想を得たものである。「地球」が含まれないのはこのためである。西欧ではヘレニズム期より惑星は神々と結び付けられ、この思想はルネサンス期に錬金術と結びついて、宇宙と自然の対応をとく自然哲学へと発展した。この作品は、日本語では「惑星」と訳されてはいるが、実際の意味合いは「運星」に近い。それぞれの曲の副題は、かつては「...の神」と訳されていたが、近年では本来の意味に則して「...をもたらす者」という表記も広まりつつある。予てよりホルストは、作曲家 アーノルド・バックスの兄弟で著述家のクリフォードから、占星術の手解きを受けており、この作品の構想にあたり、占星術における惑星とローマ神話の対応を研究している。
編成
組曲『惑星』は大編成の管弦楽のために書かれており、オルガンや、最後の「海王星」では舞台の外に配置された歌詞の無い女声合唱が使われる。初演に立ち会った聴衆は斬新な響きに驚き、この組曲はたちまちに成功を収めた。『惑星』はホルストの最も知られた作品となったが、作曲者自身はこれを佳作の一つとして数えてはおらず、彼の他の作品が尽くその影に隠れてしまうことに不満を洩らしていた、といわれている。
木星の中間部について
「木星」の中間部、
Andante maestoso の旋律は、後に(ホルストの意思とは別に) セシル・スプリング=ライス(Cecil Spring-Rice)によって "
I vow to thee, my country" で始まる歌詞が付けられ、愛国的な賛歌として広く歌われるようになった。また、同曲は日本では
2003年5月21日リリースの
本田美奈子.のアルバム『
AVE MARIA』の1曲として
岩谷時子による歌詞でおさめられている。さらに
平原綾香 のデビュー曲としても知られており、作詞家吉元由美により新たな歌詞が付けられたものが
2003年12月17日にシングル盤『
Jupiter』としてリリースされている。ハワード・ブレイクリー作曲、
ザ・ハニカムズ歌唱・演奏の「Once You Know」も、この旋律に触発された曲の一つである。
冥王星について
この組曲には、
冥王星が取り上げられていないが、これは作曲当時にはまだこの小さな星が発見されていなかったことに因る。冥王星がアメリカの天文学者
クライド・トンボーによって発見されたのは、この作品が完成した14年後の
1930年のことである。
ホルストの没後半世紀以上経った
2000年、イギリスの作曲家
コリン・マシューズによって『
冥王星』(
Pluto, the renewer )なる作品が発表されている。
ハレ管弦楽団がホルストの専門家として知られる彼に依頼したこの作品は、ホルストの『惑星』を補う意味で書かれており、一つの興味深い試みではあろうが、しかしながら作風は著しく異なっており、この流儀が定着するかは未知数である。また、現代の天文学界ではそもそも冥王星は惑星ではなく
小惑星ではないかとする説もある。
編曲
この曲はオーケストラ曲ではあるが、しばしば
吹奏楽や
ブラスバンドのために
編曲されるほか、
冨田勲によるシンセサイザー編曲がある。
編曲の制約
ホルストがこの曲に対して非常に厳格な制約を設けた事は有名。楽器編成の厳守から抜粋演奏の禁止まで提示しており、死後も遺族によって守られてきた。
しかし1977年、冨田勲によるシンセサイザー音楽用の編曲が許可されて以降、この制約は絶対的なものでは無くなっていく。1986年にはエマーソン・レイク・アンド・パウエルの同名アルバムに、プログレッシブ・ロックにアレンジされた火星が収録され、ついにクラシック音楽の枠からも逸脱した。日本では、21世紀に入ってから木星をポップスにアレンジしたJupiterという曲が平原綾香によってヒットした事が記憶に新しい。
惑星とローマ神話での名称
太陽系の惑星と、ローマ神話に於ける名称の関係は以下の通りである。
惑星名 - ラテン語読み - 英語読み
関連項目
管弦楽曲
Die Planeten | The Planets | The Planets (Gustav Holst) | 행성 모음곡