培養(ばいよう)とは、主として微生物を人工的に育てる事である。特に、人工的な装置の中で育てる場合に使う事が多い。微生物研究の基本的な技術の一つである。
または多細胞生物の組織を培養することもできる。そのような技術は組織培養と呼ばれる。
細菌類においては、一つは彼らの構造的な単純さのせいである。細菌類が存在する試料中から、その姿を観察するのは不可能ではないが、それをその外見から種類に分けるのは不可能である。それは、彼らが外見にそれほど多様性がないからであり、また、その分類には生理的性質が重要だからである。彼らの個々の細胞は小さく、少数では扱いづらく、どうしても入手した細胞を増殖させ、それを研究対象にする必要がある。
菌類の場合、彼らの構造はもう少し複雑で、多様性があるので、外見は重要な分類の基準となり得る。しかし、その構造は繊細で、多くの場合、試料を採集する過程で壊れてしまう。したがって、完全な姿を見るには、持って来てから、あらためてその構造が作られるのをまたねばならない。また、彼らの構造は生活史を通じて変化し、たとえば有性生殖器官、無性生殖器官の構造が重要な特徴である。それらを追跡するには、やはり培養に頼らざるをえない部分が大きい。
これらの生物では、したがって、培養技術の開発が、研究の進歩への大きな突破口である場合が多い。菌類においては、培養技術の確定していない分類群は、なかなか研究が進まない。現時点では接合菌門のトリコミケス綱、子嚢菌門のラブールベニア綱などはほとんど培養法が分かっていない。細菌類の場合、培養できないものは、そもそもその存在すら把握できない場合がある。
原生動物、藻類では、必ずしも培養できないと研究が進まないと言う事はない。しかし、培養してみたら予想外の事実が、と言う例は存在する。
ルイ・パスツールが酵母の研究を行ったとき、酵母の生理作用に関心を持ち、これを研究するために培養液の成分を選択して培養した。このあたりから、培養が意識的に行われてくる。ロベルト・コッホは病原体の研究に当たって、病原体の純粋培養を前提として、そのために培養法の基礎となる様々な技術を開発した。これらの努力により、20世紀初頭には主要な病原性細菌の大部分が培養されるようになり、この間に培養技術は飛躍的に発達した。組織培養や細胞培養も、基本的にはこれらの技術の応用から始まったものである。
この様にして、複数の微生物が出現すれば、その中から目ざす微生物を選んで、これを単独で培養する運びとなる。この培養が純粋培養である。微生物の研究においては、純粋培養はとても重視される。実験や観察で得られた情報が、真にその対象のそれであることを確認する方法が、純粋培養が維持されていることを前提にしなければ非常に難しいからである。
たとえばあるキノコの胞子を培養して別の名で知られるカビの姿が現れたとすれば、そのキノコの胞子から本当にそのカビが現れたのか、それともそのカビの胞子が混じっただけなのかの判断はまずできない。病原体の研究では、そのような混乱は命に関わる。パスツールが炭疽病のワクチンを開発したときも、当初は元気な菌の混入によって、ワクチンを接種した家畜が死ぬ例があったという。
培養のためには、育つ場を提供しなければならない。それが一定成分の液体のような、均一な成分の素材の場合、これを培地と呼ぶ。菌類、細菌類では各種栄養素を溶かした培地を用意する事が多い。培地が液体であれば液体培地という。寒天等で固めた固体培地を使う事も多い。特に、寒天を使って固めた寒天培地は、広く利用され、培地の代名詞のように使われる。
培地内の栄養を使いつくせば、その生物は育たなくなるので、様子を見ながら植え継ぎをしなければならない。対象の生物が、ある程度は単一のクローンとみなせる場合、このようにして植え継ぐものを株と言う。
できれば目的の生物だけを育てる、つまり純粋培養するのが研究には都合がよい。しかし、それが巧くいかない場合、とにかく育てばいいや、で色々混じっていても育つ方法を探すやり方もある。寄生性の種を対象にする場合、宿主と寄生者を同時に培養する、二員培養というやり方がある(ウイルスの場合、繁殖には絶対に生きた細胞が必要なので、必然的にこの方法となる)。
そこまで人工的な環境では育たない生物は、植木鉢に植物を植えてその上で育てるとか、動物の体内に注入して育てるなど、他の生物そのものを培地として用いるというのもやりかたとしてはあり得る。パスツールが狂犬病のワクチンを開発したときには、イヌからイヌ、それも直接に脳から脳へ植え継ぐという荒技を行なったと言われる。現在でもウィルスのワクチン製造のための培養には鶏卵が用いられる。
また、培養の期間を通じて、そのような滅菌状態を維持することも大切である。そのためには空気は出入りするが微生物は出入りしない器具が必要になる。これは、パスツールまでの100年以上にわたって様々な苦労の種となった、自然発生説否定のための装置に他ならない。しかし、今では理屈がわかっているので、それほど困難な問題ではなく、試験管には綿栓・シリコン栓などが使われる他、作業のための無菌箱やクリーンベンチ、無菌室など、いろいろな用具や方法が考案されている。
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