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地政学(ちせいがく、Geopolitics)とは、地理的な位置関係が国際関係に与える影響を研究する学問である。イギリスドイツアメリカ等で世界戦略に科学的指針と正当化を与えることを目的とした。「地政学的」のように言葉として政治談議の中で聞かれることがある。地理学のみならず歴史学軍事学政治学経済学、また文化宗教などの見地からも研究を行う為、広範にわたる知識が不可欠となる。また政治地理学とも深い関係にある。

地政学の歴史


「地政学」という言葉は、スウェーデンの政治学者ルドルフ・チェレーン(Rudolf Kjellen)が最初に使用した。

地政学の流れの一つはドイツにあり、カール・ハウスホーファーは、国家は国力に相応の資源を得るための生存圏(レーベンスラウム)を必要とするという説を唱えた。生存圏構想はアドルフ・ヒトラーにとりあげられ、第二次世界大戦前・中のドイツの戦争(特にバルバロッサ計画)の理論的支柱になった。この領土拡大(侵略)の為に用いられた学派は第三帝国の滅亡とともに消滅した。

もう一つの流れは英米系のもので、大陸国家(ランドパワー)と海洋国家(シーパワー)が世界の覇権をめぐって争っているという世界像を描く。イギリスのハルフォード・マッキンダーは、ユーラシア大陸の中央部(ハートランド)を制するものが世界を制すると主張して、イギリスの立場からロシアへの対抗を説いた。後にアメリカのニコラス・スパイクマンは、大陸縁辺部(リムランド)の支配者が世界を制するとして、冷戦期アメリカの立場からソ連への対抗を説いた。この学派は防衛の為として用いられた。

地政学は特にアドルフ・ヒトラーが率いたナチス・ドイツ等の帝国主義的な極右勢力へ大きな影響を与えた。その影響からか地政学は第2次大戦後の日本では主に革新勢力から意図的に排斥されてきた。しかし一方で引き続き地政学的観点を用いて戦後アメリカやソ連などの大国が国家戦略を展開してきたのは紛れもない事実であり、日本の学界から地政学を排除してしまったことがかえって日本外交の方向性の不鮮明さや稚拙さなどの弊害をもたらしていることは否定できない。

国際政治学では国際関係を静的モデルの連続としてその変化を細かに捉えようとする、いわば微分的な傾向があるのに対して、地政学は国際関係を常に動態力学的な見地から見ようとするもので、全体として積分な要素が強いと考えることができる。

スパイクマンのリムランド理論


イエール大学教授スパイクマンのリムランド(ユーラシア大陸の周辺)の国々に対する政策の根本とは、

  1. ハートランドへの侵入ルートにあたるリムランドの主要な国々とアメリカが同盟を結ぶこと。
  2. この侵入ルートをふさぐ強力なリムランド国家(例、ヒットラー・ドイツによるフランスノルウェー支配/ギリシャトルコとの同盟)をつくらせないこと。
  3. リムランド諸国間のアメリカ抜きの同盟をバラバラに切断するが、同時に、ハートランドの国にリムランドの国々を支配させないようにする。

スパイクマンは現代(当時は第二次世界大戦中)の船舶技術において、アメリカをとりまく大西洋太平洋も「防波堤ではなく、逆に高速道路である」と認識しており、現代の兵器技術においていかなる国のパワーも地球上のいかなる場所であれ「地理的距離とは無関係に投入できる」と見抜いており、アメリカの孤立主義モンロー主義)の不毛と危険を警告し続けた。この提言を基にして大戦後のアメリカの国家戦略が実行されており、これからのアメリカの戦略、国際情勢を予測する上で大きなヒントとする専門家もいる。

地政学で使われる用語


  • シーパワー
大陸の周辺に位置し、海軍に重点を置いた国家である。アメリカ、イギリス、日本などがこれに当たる。
  • ランドパワー
大陸に大きな面積を占め、陸軍に重点を置いた国家である。ロシア、中国、ドイツなどがこれに当たる

地政学に関する議論


地政学への批判は、その実証性の薄さとイデオロギー的正当化に対してなされる。地政学の諸説は、理論の妥当性を事例分析に接続して検証する方法を持たず、大国の意図が無媒介に世界地図に投射されるものと仮定して説明する。大陸系地政学(ハウスホーファーやチェレーンなど)はイデオロギー的にナチスにより支持され、自国の拡大の為に他国の侵略を正当化するなどの内容になっている。また英米系地政学(マッキンダーやスパイクマン)はハートランド侵略国家の拡大の防衛の為(具体的にはロシアの封じ込めを結論とするため)、ロシアソビエト連邦冷戦下においてソ連を支持する勢力によって盛んに批判された。

しかし実証性の薄さは政治学や社会科学全般にいえる話であるため、地政学のみへの批判として持ち出すことには無理がある。地政学が体系化される以前からイギリス、フランスなどが国家的戦略としてロシアの南下政策の封じ込めに対して非常なコストを払ったことも事実であり、プロパガンダとしてのみ考えることもできない。地政学の是非に関する議論は多分に政治的立場を反映するものになることが多いため学問的見地からの判断は困難である。

現代の地政学


政治地理学との関係


人文地理学の一分野である政治地理学(political geography)との関係はとても深く、取り扱うテーマも20世紀前半まではほぼ同一視されていた。しかし、歴史の項でも見るとおり、政治地理学はイデオロギー的な内容でタブーに近いものとして戦後は日本ドイツアメリカなど各国で軽視され続いたが、戦後は地理学者らが中心となって地道な努力により政党などの政治集団や自治行政といった政治色の無い分野の計量的な分析を取り入れたり、社会経済などの概念も取り入れたりし、地政学からは距離を置いて独自の道を歩もうとする傾向がある。

しかし、マクロな視点では地政学とは不可分な関係でもある。政治地理学は現在では再び人文地理学の重要な一分野として認知されているが、地政学と政治地理学との明確な境界線を引く事は難しいのが現状である。

関連項目


参考書籍


  • 曽村保信『地政学入門――外交戦略の政治学』(中公新書, 1984年) ISBN 4121007212
  • 奥山真司『地政学――アメリカの世界戦略地図』(五月書房, 2004年)
  • 倉前盛通『悪の論理――ゲオポリティク(地政学)とは何か』(日本工業新聞社,1977年)
  • 倉前盛通『新悪の論理――日本のゲオポリティクはこれだ』(日本工業新聞社,1980年)
  • 河野収『地政学入門』(原書房,1981年)
  • クリスティアン W シュパング「カール・ハウスホーファーと日本の地政学 一 第1次世界大戦後の日独関係の中でハウスホーファーのもつ意義について」『空間・社会・地理思想』第6号(2001年)2-21頁。
(http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/geo/pdf/space06/01spang.pdf)

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