原子力潜水艦(げんしりょくせんすいかん)、原潜(げんせん)とは動力に原子炉を使用する潜水艦のこと。欧米においては、atomic(原子力)に代わってnuclear power(核動力)という用語が使われており、近年では核動力潜水艦とも呼称される。
通常型潜水艦の連続潜航時間および連続航海期間を延長する努力は長年にわたって行われてきたが、「可潜艦(submargible ship)」(潜ることも出来る)ではなく「真の潜水艦」(潜航状態を常態とする)が達成されたのは、上述の点を生かした原子力潜水艦が登場してからのことである。もちろん、連続航海日数の大幅な延長が可能になったとはいえ、乗員の健康面や精神面、食料、整備などの問題があるので、実際には2ヶ月程度の潜航しか行わないが、通常型に比べ制約はきわめて小さくなったと言ってよい。
また、原子力の導入は、潜水艦の水中機動の自由度を大きく増したことも指摘される。潜航中の通常動力潜水艦の動力は蓄電池に蓄えられた電力のみで、これによる水中速力は20数ノットが限界であり(注1)、またその速度で航行した場合には著しく潜航時間が短くなってしまう。しかし、原子力潜水艦の場合、大きな熱出力を連続して取り出せるため、常時最高速度近くでの航行が可能で、溶融金属冷却原子炉を採用したロシアのアルファ級攻撃型原潜などは最高速度は40ノットを超えるといわれている。もっとも実際には、高速は騒音発生の原因となり、脆弱性(被探知)のもととなるので、それほど頻繁に行われるものではない。
逆に原子力潜水艦の欠点としては、通常動力の潜水艦に比べ静粛性が劣ることである。高速回転する蒸気タービンの軸出力で低回転のスクリューを回すため、減速ギヤを介在させる必要があり、この減速ギヤが大きな騒音発生源となる。
また、原子炉作動中は、冷却水循環ポンプを常時動かしておかねばならず、ポンプも大きな騒音発生源となっている。
かつて、米海軍は、蒸気タービンで発電機を動かし、モーターでスクリューを動かす「ターボエレクトリック推進」システムを開発し、SSN-597「タリビー」に採用したが、蒸気タービン式に比べて効率が悪く、水中速力も劣るため、現在では使われていない。
この他、開発・運用に非常に費用がかかる、用途廃止となったあとの原子炉・核燃料の処理の問題、メルトダウンの危険性などが挙げられる。このため最新の原子力潜水艦では、低出力時には冷却材の自然循環のみによる運転が可能になっており、ポンプの運転が不用になっている他、高濃縮ウランを用いた燃料棒を使用し、燃料棒の寿命を艦のライフサイクルと等しくして、艦の運用中の燃料交換を不用にし、稼動率の向上と放射性廃棄物の減少をはかっている。
また、その特性上、秘匿性が非常に高いことを生かし、核戦略の一端を担う海中ミサイル基地とでも言うべきタイプも登場した。こうした潜水艦を弾道ミサイル原潜、戦略ミサイル原潜や戦略原潜などと呼ぶ。初期のポラリス原潜では、核弾頭1発を搭載した長射程の弾道ミサイル16基を装備していたが、MIRV技術の進歩により、現在では、1発あたり10~14発の核弾頭を搭載した多弾頭式の弾道ミサイルを14~16基搭載するまでになっている。弾道ミサイル原潜はICBMの固定サイロよりも発見されづらいという特徴があるため、先制攻撃の手段としてではなく攻撃を受けたあとの反撃手段としての意味合いが強い。こうした潜水艦の登場は、冷戦を背景にしたものに他ならないが、アメリカ海軍のジョージ・ワシントン級(1番艦は1959年就役)を嚆矢として、はじめはアメリカ・ソ連、次いでイギリス・フランスが弾道ミサイル原潜を保有するようになると、弾道ミサイル原潜の護衛・捜索・追尾・攻撃が攻撃型原子力潜水艦の重要な任務になった。
そのほかにも対地攻撃や対艦攻撃用の巡航ミサイルを装備した型もありこのタイプのことを巡航ミサイル原潜などと呼ぶこともある。これは、旧ソ連海軍において、仮想敵たるアメリカ海軍の空母機動部隊への対抗上、特に大きく発展した。