冤罪(えんざい)とは、無実であるのに犯罪者として扱われること。無実の罪、ぬれぎぬともいう。
逮捕され被疑者として扱われたり、起訴され刑事裁判を受けたりする場合も、新聞報道などで犯人扱いされ、冤罪と呼ばれる場合があるが、
一般的に冤罪事件と呼ぶのは、刑事事件で起訴され一旦有罪判決が出たが、その後の上告や再審で無罪の判決が出たもの、または、無罪の判決は出ないか審議中だが、起訴側の立証に疑問点が多い場合を言う。
日本の場合、冤罪主張がなされていても、話題とならなければ報道などで取り上げられないことも多い。日本では最終審で死刑判決が出た場合、冤罪主張がなされていても再審請求が受け付けられないことが多く、死刑執行も行われないまま獄死する例が多い。
原因
冤罪が生じてしまう原因は多々あるが、古くから問題とされてきたのは捜査機関をはじめとした国家による冤罪である。政治的意図や捜査機関の行き過ぎた見込み捜査などからある人を犯人と仕立て上げてしまう類型である。特に科学的捜査方法が確立する以前には捜査能力の限界から先入観をもった捜査による冤罪が発生する可能性が高かったが、それ以後も冤罪がなくなったわけではない。日本での旧
刑事訴訟法に見られたような裁判における
自白主義も冤罪の誘因であると考えられている。
また国家機関以外の私人の行為が原因となって冤罪が発生する場合もある。例えば痴漢の被害を受けたかのように装って相手(主に男性)から金銭を得ようとしたり、その社会的評価を貶めようとする事件がそれである。無実の老人に対して突然「泥棒」と叫び、これを警察官などに拘束させておいた隙に逃走するという事件(四日市冤罪事件)も発生している。ちなみにこの老人はその後拘束時の外圧によるショックおよび精神的ショックで亡くなっている。このように「冤罪でした」では済まされない場合も多々ある。
またマスメディアの発展に伴い「容疑者」として広く世間に、センセーショナルに報道された場合に冤罪被害が著しく拡大するという問題も生じている。(松本サリン事件など)同じくインターネットの発達により、全く別人であるのにも関わらず自分の顔写真を犯人であるとして流布させられるという被害も発生している。特に少年事件の場合には顔写真が公開されないのが通常であり、関心が高まる分被害も拡大する。
予防と対処
冤罪を予防するため様々な制度が整備されている。
まず、捜査機関による捜査に一定の歯止めをかけることで冤罪を予防しようという試みがある。日本の場合、日本国憲法および刑事訴訟法における自白法則と補強法則の採用が冤罪防止に一定の役割を果たしている。つまり拷問や脅迫などによって引き出された任意性のない自白は証拠とすることができないという自白法則(日本国憲法第38条第2項、刑事訴訟法第319条1項)や、自白を証拠として偏重すると苛烈な取り調べによって虚偽の自白が引き出され、冤罪が発生するおそれがあるため、自白のみによって被告人を有罪とすることはできないという補強法則(日本国憲法第38条第3項、刑事訴訟法第319条第2項)が歯止めとして機能するのである。
また裁判手続においても冤罪を防ぎ、あるいは冤罪が生じてしまった場合に備えての手立てが講じられている。日本の場合、裁判官から予断を排除するための起訴状一本主義や、再審制度がその例としてあげられる。
さらに冤罪によって不当に逮捕された者が国家に対して損害賠償を求めることもできる。日本の場合は国家賠償法や、日本国憲法第40条を受けて立法された刑事補償法、被疑者補償規定により補償を求めることができる。
冤罪の原因が私人である場合には不法行為による損害賠償請求という事後的対処が主となる。マスメディアによる冤罪被害の場合も基本的に同様であるが、マスメディア自身による救済機関を設けるなどしていることもある。
捜査段階の冤罪事件
先入観にとらわれず、
無罪推定の原則・原点に立ち返った適正な犯罪
捜査の執行が要請される。
誤認逮捕
店内において女性が「泥棒!」と叫び、前に並んでいた老人の男性が、周囲の店員や
警察官に長時間取り押さえられ、
心臓発作で死亡するという、極めて痛ましい事件(
誣告した女性はその後行方不明)が起こっている(
2004年2月17日:
四日市ジャスコ誤認逮捕致死事件。
事件詳細)。現行犯扱いにおける誤認の場合警邏官の制圧や発砲などによる死亡例については被害者は抗弁の機会を失うことになる。
新たな冤罪事件
最近の日本において、軽微な
痴漢行為も犯罪であるという一般的認識が確立し、従来は厳重注意・微罪処分で済まされていたものが逮捕・検挙されるケースが増加した。だが、これに伴って、痴漢をしていないのに誤って検挙されるという「痴漢冤罪」の報告が目立つようになった。詳細は
痴漢冤罪事件を参照。しかしながら痴漢冤罪被害者の団体で活動している男が電車内で女性の脚を盗撮したとして、再び逮捕されるという事件も起こっている。
備忘録
弘前大教授夫人殺し事件のように時効成立後、真犯人が良心の呵責に耐えられず、自首するケースが存在する。しかしながら現在は時効成立後、民事上の損害賠償を請求する訴訟が多発し、真犯人が名乗り出にくい状況になっていることは否めない。
主な冤罪事件及び冤罪と疑われている事件
日本
- 1908年 - 出歯亀事件(証拠は一時的な自白のみで、真相不明)
- 1910年 - 大逆事件(幸徳事件)
- 1913年 - 吉田岩窟王事件(発生から50年後、再審による無罪判決)
- 1915年 - 加藤老事件(発生から62年後、再審による無罪判決)
- 1928年 - 山本老事件(第三次再審請求棄却)
- 1942年 - 横浜事件(検挙から63年後、再審開始)
- 1946年 - 榎井事件(発生から47年後、再審による無罪判決)
- 1947年 - 福岡事件(発生から29年後、被疑者2人に対し唐突な死刑執行と恩赦)
- 1948年 - 帝銀事件(被疑者死亡により公訴棄却)
- 1948年 - 幸浦事件(発生から15年後、最高裁で被告全員に無罪判決)
- 1948年 - 免田事件(発生から34年後、再審による無罪判決)
- 1949年 - 松川事件(発生から14年後、最高裁で被告全員に無罪判決)
- 1949年 - 弘前大教授夫人殺し事件(弘前事件)(服役終了後に真犯人が自白し、発生から28年後、再審による無罪判決。証拠は警察の捏造)
- 1950年 - 二俣事件(発生から12年後、最高裁から高裁へと差し戻され、無罪判決。証拠は警察の捏造)
- 1950年 - 財田川事件(発生から34年後、再審による無罪判決)
- 1950年 - 小島事件(発生から9年後、最高裁から高裁へと差し戻され、無罪判決。自供は警察のでっちあげ)
- 1950年 - 梅田事件(服役終了後、再審による無罪判決(発生から36年後))
- 1950年 - 牟礼事件(被疑者死亡により公訴棄却)
- 1950年 - 木間ヶ瀬事件(一審では死刑判決だったが、控訴審で無罪判決)
- 1951年 - 八海事件(一旦無罪判決後、高裁に差し戻され、その後最高裁にて再び無罪判決(発生から17年後))
- 1951年~1952年 - 藤本事件(被疑者に死刑執行)
- 1952年 - 菅生事件(発生から6年後に無罪確定。警察が自ら起こした狂言事件の可能性)
- 1952年 - 白鳥事件(服役終了後、異議申し立てを行うが棄却。ただし、冤罪事件の再審において重要な「白鳥決定」の判断が生み出された)
- 1953年 - 徳島ラジオ商殺し事件(発生から32年後、日本初の死後再審無罪判決)
- 1954年 - 赤堀事件(島田事件)(発生から35年後、再審による無罪判決)
- 1954年 - 仁保事件(最高裁から高裁へと差し戻され、無罪判決(発生から18年後))
- 1954年 - 三里塚事件(服役終了後、被疑者死亡により公訴棄却)
- 1955年 - 丸正事件(服役終了後、再審請求を続けたが、被疑者死亡により公訴棄却)
- 1955年 - 松山事件(発生から29年後、再審による無罪判決)
- 1961年 - 名張毒ぶどう酒事件(発生から44年目の2005年に再審開始決定。検察が異議申立て)
- 1963年 - 狭山事件(無罪を訴え、現在も再審請求中。2005年、特別抗告棄却)
- 1963年 - 波崎事件(被疑者死亡により公訴棄却)
- 1966年 - 袴田事件(無罪を訴え、現在特別抗告中)
- 1966年 - 川端町事件(無罪を訴え、現在も再審請求中)
- 1969年 - 鹿児島夫婦殺し事件(差戻審で無罪判決確定。国賠の最中に被告人は死亡)
- 1967年 - 布川事件(発生から38年目の2005年、再審開始)
- 1967年 - 日産サニー事件(無罪を訴え、現在も再審請求中。1999年、特別抗告棄却)
- 1971年 - 三崎事件(無罪を訴え、現在も再審請求中)
- 1972年 - 山中事件(最高裁から高裁へと差し戻され、無罪判決(発生から18年後))
- 1974年 - 甲山事件(発生から25年後、第二次再審控訴審で無罪)
- 1976年 - 北海道庁爆破事件(無罪を訴え、現在も再審請求中)
- 1979年 - 野田事件(無罪を訴え、現在も再審請求中)
- 1981年 - みどり荘事件(第一審で無期懲役判決、第二審で逆転無罪判決(発生から14年後))
- 1981年 - ロス疑惑(発生から22年後、最高裁で被告に無罪判決。但し同被告は別の容疑で有罪判決を受け服役)
- 1985年 - 草加事件(無罪を訴えて判決取り消しを3度申し立てるが退けられる)
- 1989年 - 北方事件(証拠が無いとして地裁で無罪判決(発生から16年後))
- 1994年 - 松本サリン事件(初め第一通報者が犯人と疑われたが、後に冤罪が判明、被疑者は後に松本市教育委員に就任)
- 2000年 - 恵庭OL殺人事件(被告は無実を主張し、公判継続中)
- 2002年 - 豊川市男児連れ去り殺人事件(捜査段階での自白の信用性が争点となり、一審で無罪判決)
- 2003年 - 鹿児島事件(無罪を訴え、現在特別抗告中。県議選を巡る公選法違反の容疑で自白を強要)
- 2004年 - 四日市ジャスコ誤認逮捕致死事件
外国
冤罪を扱った作品
冤罪がテーマの作品
- 映画『真昼の暗黒』(日本、1956年、八海事件がモデル)
- 映画『日本の黒い夏―冤罪』(日本、2001年、松本サリン事件被害者の書籍から)
- 映画『出獄』(アメリカ)
- 映画『死刑台のメロディ』(アメリカ、サッコ・バンゼッティ事件)
- 演劇『テレビは何を伝えたか』(松本美須々ヶ丘高校、『日本の黒い夏―冤罪』原作)
冤罪に関連した作品
参考文献
- 『冤罪はこうして作られる』(小田中聡樹)
- 『冤罪の構図-やったのはおまえだ』(江川紹子)
- 『魔の時間-六つの冤罪事件』(青地晨)
関連する制度(法律)
- 「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」(刑事補償請求権、国家賠償請求権)
- 刑事補償法
- 被疑者補償規定(法務省の訓令:逮捕されて、起訴されなかった場合に適用)
関連項目
司法 | 冤罪