人工臓器(じんこうぞうき、Artificial Organs)とは、あるときは人間以外の動物の力を借り、あるときは工学技術を土台にして、またあるときは細胞組織のレベルに戻って、バイオテクノロジーの力を借りて作り出された臓器のことである。
人工臓器を大別すると、3種類に分類できる。
3種類の人工臓器は微妙に重なりながらも、およそ順に過去から現在、未来へと段階的に研究開発及び実用化が進行している。それぞれは完全に独立しているわけではなく、互いに情報を共有したり、相互の研究成果を活用しお互いの進捗を確認しながら同じゴールを目指している。だが、その中でも現実として臨床応用の段階に入っているのが培養皮膚や顎関節の再生技術に見られる、組織生体工学から生まれた再生臓器である。
まだ、基礎研究の段階ではあるが、今後の発展が期待できる分野としてES細胞を用いた人工臓器開発技術である。それぞれについては、以下に別節を設けて解説する。
技術の新規性という意味では、旧来型に属するがこうした工学ないしは電子工学技術の粋を尽くした先には、多点電極を用いて視覚中枢へ電気刺激を行うことによって目の見えない人に視力を与える人工視覚システム(人工網膜、人工眼)の実用化に向けて研究開発が進んでいる。
近年では、体力の衰えや不慮の事故等によって生じた、機能障害を補助することを目的として、機械とコンピュータ技術を組み合わせた、人工肢や人工腕、さらには補助装置等も実用化に向けた開発が進んでいる。これまでは、自分の意思で義手や義足を動かすことが出来なかったが、運動神経系から生じる微量な電気信号をキャッチすることができるセンサーの開発等によって、自分の意思で義手や義足を動かすことが可能になったことも、患者さん達には朗報であろう。無論のことではあるが、今後は感覚神経系とのフィードバック等も考慮に入れた人工肢や人工腕等の開発も進むものと思われる。これによって、失われた感覚等も取り戻せることになり、社会復帰が十分に可能になるものと思われる。
(執筆者注:現在の人工内耳は、体内に残存する内耳内のコルチ器(関連項目:蝸牛)へ複数の微小な電極を埋め込み、音声(骨共鳴を拾うピックアップとマイクロフォンを用いる)電気パルスへ変換する装置(アンプ及びフィルター)を通じて、外有毛細胞(英Outer Hair Cell :略称 OHC)、内有毛細胞(英Inner Hair Cell :略称 IHC)へ電気刺激を与えることによって実現されている)。
つまり交換するべき、器官や部位に対して、生きた細胞を操作したり、ある種の材料を埋め込むことによって、新たに組織を形成することによって生まれた人工臓器のことである。この種の人工臓器を生み出す技術は、再生医学や組織生体工学と呼ばれており、医学の研究者のみならず、細胞や遺伝子を扱う分子生物学の研究者、プラスチックや高分子材料を扱う材料工学の研究者などが、学問領域の枠を超えて学際的な研究開発を行うことによって生まれた技術である。
現在、臨床応用ないし臨床試験の段階に入っている人工臓器としては、皮膚、軟骨、関節、神経、血管等が挙げられる。そのほかの臓器に関しては、その臓器本来の機能が多彩であり、現在も研究開発が行われている段階である。つまり現時点において、組織生体工学に基づく人工臓器は、単機能の臓器再生が限界であり、将来に関しては幹細胞からの臓器再生の研究開発に委ねられていると言っても過言ではない。
現在、人体へ埋め込む材料としては、細胞間や組織(器官・臓器・部位)間を繋ぐコラーゲンによって表面処理を施した素材がよく使われている。また、人工皮膚などにおいては、キチンを用いた素材も用いられている。
このような状況下における、幹細胞を用いた人工臓器に関する研究開発に関しては、当分の間、基礎的研究に限るとの条件付で認められている。
これからの研究課題としては、ES細胞が分化せずに増殖するのはなぜか、また分化を促しているものは何か。成体幹細胞はどこにどのくらい存在しどのように作り出されるのか。成体幹細胞の増殖能力を高めるにはどうしたらよいのか。幹細胞は生体の免疫系にどのように反応するのか。ES細胞と成体幹細胞にはどのような違いがあるのか。最良の医療に結びつけるためにはこれら、まだまだ尽きない研究課題に対してひとつひとつ取り組む必要がある。
今後の研究課題としては、ES細胞においては、目的となる臓器を生み出す分化を促す誘導体の研究等が欠かせないと考えられる。当然のことではあるが、2003年に一応ヒトゲノムの解読が完了(関連項目:ヒトゲノム計画)したため、今後はたんぱく質工学との連携が欠かせないと考えられる。
幹細胞を用いた研究開発における国際的な状況については、次の通りとなる。(引用文献:科学技術政策研究所 科学技術動向センター発行「再生医学の最近の動向」より)。
工業的アプローチによって作り出された人工臓器は、その後材料工学の進展に伴い、生体との親和性に優れた材料が生まれたこと、さらには体内への埋め込みのリスクが減少したことによって、実用化が図られたものも多い。
例えば、人工骨であるが、初期の埋め込み型人工骨はステンレスやアルミナといった材料を直接使ったものであった。このため、数年から10年に一度、外科的検査またはレントゲン検査によって、体内に埋め込まれた人工骨を検査し、場合によっては取り替える等、患者に負担をかける治療方法となっていた。しかし、1980年代にリン酸カルシウムという骨の材料に限りなく近い素材を用いて、かつまた、その加工方法を工夫することによって人工骨の周りに生体組織が定着しやすくなった。このことによって、人工骨を用いた医療を患者が安心して受けられるようになった。
そして、生体組織が定着しやすくなる工夫の中において得られた知見を元にして、生体組織を直接持ちいる方法や生体組織を構成する細胞を直接用いることによって、臓器及び生体組織の再生を図る技術として組織生体工学と呼ばれる人工臓器技術が生まれた。
また、生物学上における発生学の知見から、ES細胞を用いた人工臓器の研究開発におけるヒントが得られたといっても過言ではない。現在、発生学から見ても、細胞の機能分化については、まだまだ未知の領域が多く、基礎研究の積み上げによって新たな発見や常識に反する知見が得られる可能性も否定できない状況である。今後の基礎研究を進める上においては、人が人の生命を操作するという生命倫理上の問題が存在する以上、その研究を進める上においては、多くの専門家(それもできるだけ、専門分野以外の専門家)の意見にも耳を傾け、公開された環境の下で研究開発を進めることが重要であると考えられる。