ユダヤ人(ヘブライ語:יהודים)とは、ユダヤ教を信仰する者(宗教集団)、もしくはユダヤ人を親にもつ者(民族集団)という2つの捉え方がある。中世以前は前者の捉え方がなされていたが、19世紀の国民国家出現以降は後者の捉え方が優勢である。
古代イスラエル人またはユダヤ人の別称としてヘブライ人とも称されるが、楔形文字文書で特定の局外者集団を意味するハビルと関係するとも言われ原意は不明である。ヘブライズムはキリスト教、ユダヤ教の思想の基幹を成し、ヨーロッパ思想の源流ともいえる。
定義
古い民族の「ユダヤ人」と、ユダヤ教徒の「ユダヤ人」は同一ではない。現代
イスラエル国の
帰還法によれば、母親が「ユダヤ人」であるか、ユダヤ教に改宗した人のこととされる。一方、
トーラーによると、ユダヤ人であるためには母親がユダヤ人でなければならない。
「ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々」という定義は、古代・中世にはあてはまるが、近世以降では、キリスト教に改宗したユダヤ人(例えばメンデルスゾーン)も無神論者のユダヤ人(例えばフロイト)も一面では「ユダヤ人」と呼ばれるのが現実であり、特に19世紀以降の西欧では、民族を指す言葉と考えた方が良い、という人もいる。ハスカラー、改革派などはドイツ人になろうとし、実際にそのような時代もある。
また、ヘブライ聖書の古い時代の「契約」には、異教徒・異民族との結婚を奨励しない思想もあった(実際の結婚生活がそうであったかどうかは別)。これは、共同体維持のためとも考えられる。
なお、現代イスラエル国家は「ユダヤ人」とは「ユダヤ教によって定義された集団」としている。改宗者の場合、正統派以外はイスラエルでは「ユダヤ人」とは認められない。
民族性
主にポーランドを中心とした東欧に居住していたアシュケナジー(アシュケナジム)系ユダヤ人は、俗に白人系であると言われた。ドイツ語圏に住む彼らの多くはドイツ語を話し、ドイツ語圏外に住む彼らの多くはドイツ語の方言であるイディッシュ語を話していた。
オスマン・トルコ圏やスペイン・フランスなどに多く、イベリア半島出身者の末裔であるスファラディ(セファルディム)系ユダヤ人は、俗にアラブ人系であると言われ、ラディーノ語を話していた。
ほかにもイラン、インド(主に3集団)・中央アジア・グルジア・イエメン・モロッコなどを含んだ大きな観念であるミズラヒム、カライ派・カライム人、中国、ジンバブエなどのユダヤ人のほか、インド(ミゾ)・ウガンダ(アバユダヤ)・アメリカ黒人(ブラック・ジュー)などの新たな改宗者、イスラエル建国はメシア到来まで待つべきだとするサトマール派・ネトレイ・カルタ、キリスト教関連のメシアニック・ジュダイズム、ネオ・ジュダイズムなど多くの分派もある。エチオピア・ベルベルのユダヤ人は孤立して発展し、タルムードを持たない。
現在世界に散らばるユダヤ人は、全てがユダヤ教徒というわけではないが、ユダヤ人にとってユダヤ教は切り離せない宗教である。写真はユダヤ人の言語(ヘブライ語)から各国語に翻訳された聖書の一部である。また彼らは伝統的な特徴のある民族衣装も持つとも言われる(→ユダヤ教徒の衣装)。
世界のユダヤ民や宗教的集団
世界に散らばるユダヤ教徒のコミュニティーや宗教的集団には以下がある。
(英語版 Jews by country List of Jews from the Arab Worldも参照)
(エジプト、メソポタミア、モロッコ、トルコ、ペルシアなどのコミュニティーに関しては英語版Islam and Judaismも参照)
人口
英語版
Jewish populationを参照。
歴史
古代
紀元前10世紀頃、古代ユダヤ人はユダヤ教を国教とする
古代イスラエル王国を
パレスチナに建国したが、
紀元前586年に
新バビロニアにより滅亡した。
7世紀~10世紀にカスピ海北部にハザール王国が出現し、ユダヤ教を国教とした。
以来2500年以上確固たる民族(宗教)国家を持たず、ローマ帝国に反乱を鎮圧されて以降はほとんどの国民がヨーロッパを中心に世界各国へ散らばった。以降ユダヤ教徒としての各地への定着が進む。
ユダヤ教を信仰するユダヤ人はそのため土地の所有や職人への弟子入りが許されなかったが、才覚があったためキリスト教で禁止されていた金融業や商業などを発達させた。ユダヤ人迫害の中で特筆すべき悲劇は、ナチスによるホロコーストである。
近代
19世紀後半に入ると祖先が長く暮らしていたイスラエルの地に帰還してユダヤ人国家を作ろうとする運動(
シオニズム運動)が起きた。この運動は
第二次世界大戦時の
ホロコーストをきっかけに盛んになり、後のイスラエル国家建設に繋がっていくことになる。
「ユダヤ人」は世界に離散後もそのほとんどがユダヤ教徒であり(キリスト教やイスラムに改宗した途端、現地の「民族」に「同化」してしまう)、ユダヤ教の唯一にして永続的な宗教的聖地でもあるイスラエルの地に帰還することもその理由の一つである。しかし、イスラエルの地(パレスチナ)には既に多くのアラブ人が住んでいたため、現地で度重なるパレスチナ戦争が引き起こり、戦争が終結した現在もユダヤ人を狙った無差別自爆テロ攻撃は絶えない。しかし、その報復として、パレスチナの住民を虐殺していることも事実。ユダヤ人にとって、キリスト教・イスラム教国はあるのにユダヤ教国が無いのはおかしい、あって当然だという見方もあるが、イスラエル国自身は国教を設定していない。
イスラエルに多くのユダヤ人が再び移住したと言ってもイスラエルのユダヤ人の人口は、世界に散らばったユダヤ人の人口に比べるとまだまだ少なく、現在でもアメリカ合衆国に住むユダヤ人人口の方が多い。2004年、イスラエル政府の高官は「この土地にあと100万人受け入れられるだけの余裕がある」と述べており、土地そのものに余裕がない訳ではないと主張している。
反ユダヤ主義
ユダヤ人の歴史の要素の一面として、時には迫害・襲撃・追放をも含んだ
反ユダヤ主義ということが言われるが、これはあくまで極一面であって、
ディアスポラの地で2000年、地域によっては1000年以上の隣人として共存・共発展してきた面もあり、たとえば
キリスト教では親ユダヤの宗派も多く存在する。宗教弾圧を受けた面もあれば、セム的
一神教・
アブラハムの宗教の本流としての「啓典の民
People of the Book, Ahl al-Kitab」、「聖なる民 ‘am Qodeš
(マルティン・ブーバーは「聖にする民」と訳している。cf.レビ記11:45)」としての面もある。ユダヤ人はこのような迫害には屈せず、自らの宗教に誇りを持ち、また共存を模索しながら生きてきたのである。
- (詳しくは反ユダヤ主義を参照)
ホロコースト後のシオニズムの問題
イスラエル建国後、パレスチナ分割案どころか連合国家案にも反対するアラブ諸国がイスラエルに攻め込み、
第一次中東戦争が始まった。現在イスラエルの地では
パレスチナ問題が起こっている。反イスラエル・ブロックを形成した
パレスチナと
アラブ諸国は、「イスラエルは一方的に独立宣言をし、国連の分割決議で定められた領土を超えて
占領し、
アラブ人がイスラエル占領地から追い出され、多くのパレスチナ難民が発生している」と主張する。ところがまた
パレスチナや
アラブ諸国内部でも実際には親イスラエル路線をめぐって多くの対立があり、「ユダヤ人・ユダヤ教」は決して一面的存在ではなく(ユダヤ教からキリスト教が派生したことがその一例である)、また個人の集合体である。
アラブ諸国では、「シオニストとユダヤ人を区別する」ことが公言されながらも、シオニズムに反対するアラブ人・イスラム教徒や政府によって不当な弾圧が行われている地域もある。パレスチナ問題と関係のないディアスポラ民族主義者や宗教者への卑劣なテロ事件も起きることがある。
博物館
ユダヤ博物館がある都市・・・
ロンドン、
ベルリーン、
フランクフルト、
ウィーン
文化遺産
ユダヤ人関連の文化遺産として以下がある。
関連書籍
初歩的入門書・紹介書
- 手島勲矢 編著『わかるユダヤ学』 日本実業出版社 2002年9月 ISBN 4-534-03449-0
- 滝川義人 著『図解ユダヤ社会のしくみ 現代ユダヤ人の本当の姿がここにある』中経出版 2001年3月 ISBN 4-8061-1442-1
- 滝川義人 著『ユダヤを知る事典』東京堂出版 1994年04月 ISBN 4-490-10363-8
ユダヤ教
アシュケナジム社会
- 中央大学人文科学研究所研究叢書 29『ツァロートの道 ユダヤ歴史・文化研究』(中央大学出版部、ISBN 4-8057-4207-0、2002年3月)
- 『彼ら抜きでいられるか 二十世紀ドイツ・ユダヤ精神史の肖像』(ハンス・ユルゲン・シュルツ 編、山下公子・ほか 訳 / 新曜社 / ISBN 4-7885-0905-9 / 2004年8月)
- 『表現主義論争とユートピア』(船戸満之 著、情況出版、ISBN 4-915252-63-9、2002年5月)
- 『パリ・貧困と街路の詩学 1930年代外国人芸術家たち』(今橋映子 著、都市出版、ISBN 4-924831-68-9、1998年5月)
- 『フロイトのウィーン』(ブルーノ・ベッテルハイム 著、森泉弘次 訳、みすず書房、ISBN 4-622-03057-8、1992年3月)
- 平凡社ライブラリー 386『ウィトゲンシュタインのウィーン』(S.トゥールミン&A.ジャニク 著、藤村竜雄 訳、平凡社、ISBN 4-582-76386-3、2001年3月)
- りぶらりあ選書『取り消された関係 ドイツ人とユダヤ人』(ハンス・マイヤー 著、宇京早苗 訳 / 法政大学出版局 / ISBN 4-588-02216-4 / 2003年8月)
- 叢書・ウニベルシタス 510『ユダヤ人とドイツ 「ユダヤ・ドイツの共生」からアウシュヴィッツの記憶まで』(エンツォ・トラヴェルソ 著、宇京頼三 訳、法政大学出版局、ISBN 4-588-00510-3、1996年2月)
- 中公新書『ユダヤ・エリート―アメリカへ渡った東方ユダヤ人』(鈴木輝二 著 / 中央公論新社 / ISBN 4121016882 / 2003年3月)(著者は経済学者であり、パレスチナ問題に関しては偏りが見られる)
ユダヤ人の精神・生活関連
- 『ユダヤ移民のニューヨーク 移民の生活と労働の世界』(野村達朗 著 / 山川出版社 ISBN 4-634-48090-5 / 1995年10月)
- 『ニューヨーク知識人 ユダヤ的知性とアメリカ文化』(堀邦維 著 / 彩流社 / ISBN 4-88202-649-X / 2000年6月)
- E・L・カニグズバーグ(児童文学):カニグズバーグ作品
- 『魔女ジェニファとわたし ベーグル・チームの作戦(カニグズバーグ作品集 2)』(松永ふみ子 訳 / 岩波書店 ISBN 4-00-115592-3 / 2002年1月)
- 創元推理文庫 282-01『水の戒律』(フェイ・ケラーマン 著、高橋恭美子 訳 / 東京創元社 / ISBN 4-488-28201-6、1993年4月)
哲学関連
- 『ブーバーに学ぶ 「他者」と本当にわかり合うための30章』(斉藤啓一 著 / 日本教文社 ISBN 4-531-06389-9 / 2003年12月)(ただ、建国と中東戦争・パレスチナ問題に関する箇所に関しては、著者の偏りと情報の欠落があり、時にユダヤ教に対して、キリスト教的偏見が見受けられる)
- 『トーラーの知恵 現代を生きるためのユダヤ人の聖書観』(ピンハス・ペリー 著、手島勲矢・上野正 訳 / ミルトス / ISBN 4-89586-102-3 / 1988年6月)
- 『なるほど!ユダヤの格言・ユダヤの知恵』(エスカルゴ・ブックス / 滝川義人 著 / 日本実業出版社 / ISBN 4-534-02364-2 / 1995年8月)
教養関連
- 『1人の母親は100人の教師にまさる ユダヤの伝統教育と英才教育』(ルツ・アラジ 著、滝川義人 訳 / プロスパー企画 / ISBN 4-938695-40-5 / 2000年4月)
- 『子どもが伸びるユダヤ式教育』(アシェル・ナイム 著、河合一充 訳、ミルトス、ISBN 4-89586-142-2、2000年7月)
- 次ぎの著者の路線は多少固定観念を語り単純化しているため、深い問題は語っていない。日本では「金持ちになるため、ユダヤ人から学ぶ」という内容の本も多い。
- 『ユダヤ人「頭の壁」を破る法』(前島誠 著、三笠書房、ISBN 4-8379-2092-6、2004年4月)
- 『ユダヤに学ぶ世界最強の勉強法 わが子を億万長者に育てる方法』(和田秀樹 著 / ビジネス社 / ISBN 4-8284-1159-3 / 2004年11月)
- 『ユダヤ5000年の教え 世界の富を動かすユダヤ人の原点を格言で学ぶ』(ラビ・マービン・トケイヤー 編著、加瀬英明 訳 / 実業之日本社 / ISBN 4-408-39551-X / 2004年4月)
その他
- 『にせユダヤ人と日本人』(浅見定雄 著 / 朝日新聞社 / ISBN 4-02-255090-2 / 1983年12月)
- 朝日文庫『にせユダヤ人と日本人』(ISBN 4-02-260416-6 / 1986年12月)
ユダヤ関連の映画
関連項目
外部リンク
- アシュケナジム社会
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