マクロライド系抗生物質(-けいこうせいぶっしつ、以下マクロライド)は、主に抗生物質として用いられる一群の薬物の総称。
比較的副作用が少なく、抗菌スペクトルも広い、大変使いやすい抗生物質である。ことにリケッチア、クラミジアなどの細胞内寄生菌や、マイコプラズマに対しては第一選択薬となる。小児から老人まで良く処方される頻用薬の一つであるが、一方ではその使いやすさが一因となってマクロライド耐性を示す微生物が増加しており、医療上の問題になっている。 また、他の薬物との薬物相互作用が問題となる場合もある。
マクロライドの活性は化学構造上のマクロライド環に由来する。これは大分子量のラクトン環で、1つまたはそれ以上のデオキシ糖(通常はクラジノースかデソサミン)が結合されている。このラクトン環は、14員環、15員環、ないし16員環でありうる。
細菌(原核生物)のリボゾームは人間(真核生物)のリボゾームとは構造が異なっているので、人間のタンパク合成は阻害されない。同様の、リボゾームの構造の違いを利用した選択毒性を用いている抗生物質にはクロラムフェニコール、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系がある。ただし細かな結合部位と作用機序は異なる。
微生物学的には、この作用機序は主に静菌的、つまり、あくまでも増殖の抑制作用であり、菌の殺滅は宿主の免疫に依存しているが、高濃度では殺菌的にも働きうる。少なくとも古典的には、マクロライドのような静菌的な抗生物質を、心内膜炎や化膿性髄膜炎のような重症感染症に用いるのは慎重であるべきである。もっとも、この区別は基礎医学で強調されているほど重要ではない、とする識者の意見も存在する。
つまり、静菌的・殺菌的という区別が、臨床的ないわゆる「切れ味(効き)」と必ずしも相関しないことには注意する必要がある。「切れ味」というあいまい、かつ直感的な語の示す内容については、耐性菌の頻度や病変部への移行性、抗菌スペクトラム、最小発育阻止濃度 (MIC) などのさまざまな要素が複雑に関わってくるが、概してマクロライドは、臨床的な切れ味も、あまり良い薬ではない。
またマクロライドは、宿主の細胞内への浸透性が高く、特に白血球の中に蓄積しやすいという特長を持つ。このため、細胞内部に寄生する病原体に対しても有効である(適応を参照)ほか、白血球が感染の病巣に集積することによって薬剤が感染症へ運ばれやすいという、効果を発揮する上での利点がある。
特に、他の薬剤に比して特徴的であるのは、リケッチア、クラミジアといった細胞内寄生菌、マイコプラズマ、抗酸菌(ことに非定型抗酸菌)に対する抗菌力を有する点である。
ペニシリン系はペプチドグリカン細胞壁の合成阻害を作用機序とするため、細胞壁そのものを持たないマイコプラズマや、ペプチドグリカンへの依存が低い細胞壁を持つ抗酸菌などには無効であるが、マクロライドはこれらに対しても有効である。またマクロライドは、宿主細胞の内部への浸透性が高いという特長があるため、細胞浸透性が悪いペニシリン系やアミノグリコシド系の効果が低い、リケッチアやクラミジア、抗酸菌などの細胞内寄生体に対しても有効である。もう一つの、同様な利点を持つ抗生物質の代表であるテトラサイクリンは、骨や歯牙の形成に対する悪影響などがあるため、ことに妊婦や乳幼児では処方しにくい。
従って、こうした微生物の引き起こす感染症であるマイコプラズマ肺炎、オウム病、そして性器クラミジア感染症、クラミジア肺炎などではマクロライドが第一選択薬として用いられる。
ウイルス感染症には完全に無効であるので、原則として処方しない。ただし、例外的に、その病原体がマイコプラズマやクラミジアによるのか、ウイルスによるのか判断に迷うケース(例えば、軽い肺炎・気管支炎で、検査所見などから一般的な細菌が病原体として考えにくい症例)では、臨床的な重症度を考慮して、エンピリックな(起因菌同定前の)治療にマクロライドを用いることが実際にはある。一方で、急性上気道炎(いわゆるかぜ症候群)に対しても無効であり、この場合、マクロライドに限らず抗生物質の投与は一般的には薦められていない。
抗菌作用のほかに、14員環マクロライド(例:エリスロマイシン・クラリスロマイシン)はびまん性汎細気管支炎 (DPB) に対して特効的な治療効果を有することが日本で明らかになった。それ以来、マクロライドの持つ抗微生物作用以外の働きは、興味深い研究対象となっている。
もう一つ、上記のようにマクロライドには心電図異常を引き起こす副作用がある。従って、同様のQT延長作用のある薬物を併用すると、副作用が増悪し、場合によっては致死的な不整脈を引き起こすことになる。この種の薬物の代表は第二世代抗ヒスタミン薬のテルフェナジン(商品名トリルダン)であり、この薬物は代謝拮抗作用も併せ持つため、併用は禁忌となっている。他にも、バルプロ酸(商品名デパケン)、カルバマゼピン(商品名テグレトール)など、マクロライドと相互作用する薬物は複数存在する。
以上より、マクロライドを利用する(処方される)場合、市販薬まで含めて全ての現在服用している薬物を、おくすり手帳などを介して医師・薬剤師に申告することが強く勧められる。
後者の問題はしばしば軽視されがちであるが、乳幼児や若年者に用いる薬剤としては深刻な問題であり、服薬コンプライアンスの低下をきたす。つまり、あまりにも不味いのできちんと飲んでくれない(飲めない)ことが頻繁にある。抗生物質は基本的に、不規則な服薬をすることで耐性菌の発生を助長してしまうので、医師や薬剤師はマクロライドの服薬指導に注意を払っている。どうしても飲めない場合、注射薬やテトラサイクリン系への変更を考慮することもある。
どちらの弱点も、製薬各社の努力によって改善傾向にある。ちなみに、一般にセフェム系抗生物質は美味であり、こうした問題は起こりにくい。
代表的なマクロライド系抗生物質を以下に示す。薬剤の名称は一般名で表記し、括弧内太字に商品名を表した。商品名が併記されていないものについては、一般名と同じ名で販売されていることを意味する。
WHOの「エッセンシャルドラッグ」リストには、エリスロマイシンの各種製剤が収載されている。ただし、「エッセンシャルドラッグ」リストは「途上国でも買える薬」を対象にしているため、エッセンシャルドラッグ即ち「日本で重要な薬」とは限らず、日本で重要な薬が必ずエッセンシャルドラッグに入っている、という訳でもない。
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