ヴァイオリン (Violin、またバイオリン、提琴を表記する) は代表的な弦楽器であり、クラシック音楽ではピアノに並んで非常にポピュラーな楽器である。4本の弦を弓でこすることによって演奏される。
ヴァイオリンの起源については諸説あるが、はっきりしたことはいまだにわかっていない。そもそもヴァイオリン黎明期である16世紀当時において「ヴァイオリン」や「ヴィオール」という言葉が何を指すのかに関してもあいまいな点がある。祖先としてはキタラ、ルバーブ、レベック、リュートなどが考えられているが、何らかの形でヴィオール属の影響を受けている可能性が高い。
ヴァイオリンが世に登場してきたのは16世紀初頭と考えられている。現存する最古の楽器は16世紀後半のものだが、それ以前にも北イタリアをはじめヨーロッパ各地の絵画や文献でヴァイオリンが描写されている。最初期の製作者としてはアンドレア・アマティ、ガスパロ・ディ・ベルトロッティ(ガスパロ・ダ・サロとも)、ガスパール・ティーフェンブルッカーが有名である。当時は舞踏の伴奏など、世俗音楽用の楽器として考えられていた。
17~18世紀にはニコロ・アマティ、ヤコプ・シュタイナー、アントニオ・ストラディヴァリ、グァルネリ一族など著名な製作者が続出した。特に卓越していたのがストラディヴァリで、ヴァイオリンの形態は彼の研究によってほぼ完成に至る。
前身であるヴィオール族とはいくつかの相違点が挙げられるが(詳細はヴィオール族の項目を参照)、力学的に改良が施されて音量・音の張りに大きく向上が見られた。音楽文化の中心が宮廷サロンから劇場・ホールに移るにつれ、弦楽器においてこれまでになく大きな響きを持つヴァイオリンは西洋クラシック音楽を形作る中心となっていく。
弓が現在のような形になったのは本体よりもう少し遅く、18世紀末である。最初は半円形、つまり武器の弓に似た形状であったが、技術的要請から徐々に改良され、フランソワ・トルテ(タート)によって完成を見る。
本体も多少の変化を迎えている。まず、演奏される曲の音域が増加するのに伴い指板は延長された。また、より高いピッチに対応するためネックが後ろに反り、駒がより高くなった。18世紀以前に作られた楽器のほとんどは現在そのように改良されており、これらを「モダン・ヴァイオリン」、修理を受けず原形を保っているものを「バロック・ヴァイオリン」という。しかし、現代においてつくられたヴァイオリンであっても「バロック・ヴァイオリン」の形であればそう呼ばれる。
ヴァイオリンは多様な表現性を持っているため、各地の民族音楽にも使われた。特に東欧、アイルランド、アメリカのものが有名である。詳しくはフィドルの項を参照。また、インドには独特のヴァイオリンの用法がある。
16世紀中頃にはすでにヴィオラ・ダ・ブラッチョが日本に伝わっていたようである。当時ポルトガル修道士がミサでの演奏用として日本の子供に教えたことが、フロイスの「日本史」に書かれている。
しかし日本人が本格的にヴァイオリンを扱うのは明治以降と言っていいだろう。1880年音楽取調掛の教師として来日したアメリカ人ルーサー・ホワイティング・メーソンが手ほどきをしたのが始めである。ドイツ系を主とした外国人教師によって奏者が養成され、ヴァイオリンは少しずつ広まっていった。また大正時代にはジンバリスト、ハイフェッツ、クライスラー、プルメスター、エルマンといった名演奏家が続々来日し、大きな影響を与えている。
戦後になると各種の教則本が普及し、幼児教育も盛んになって、技術水準が飛躍的に上がっていった。現在では世界で活躍する日本人奏者も多数いる一方、アマチュアとしての愛好家もピアノに次いで幅広く存在する。
この項では西欧クラシック音楽におけるヴァイオリン音楽の形成について説明しています。他地域におけるヴァイオリン音楽については各民族音楽の項を参照してください。
ヴァイオリンの出現当初はリュートやヴィオールに比べて華美な音質が敬遠され、芸術音楽にはあまり使用されなかった。一方で舞踏の伴奏など庶民には早くから親しまれていた。
しかし製作技術の発達や音楽の嗜好の変化によって次第に合奏に用いられるようになる。管弦楽でヴァイオリンを用いた最初の例として、マレンツィオのシンフォニア(1589)やモンテヴェルディのオペラ「オルフェオ」(1607)が挙げられる。
17世紀には教会ソナタや室内ソナタの演奏に使われた。ソナタはマリーニやヴィターリ等の手によって発展し、コレッリのソナタ集(1700、「ラ・フォリア」もその一部)で集大成に至る。 また少し遅れて協奏曲の発展も見られるようになった。コレッリ等によって優れた合奏協奏曲が生み出されていたが、トレッリの合奏協奏曲集(1709)で独奏協奏曲の方向性が示され、ヴィヴァルディによる「調和の霊感」(1712)等の作品群で一形式を作り上げた。ヴィヴァルディの手法はJ.S.バッハ、ヘンデル、テレマン等にも影響を与えた。一方で協奏曲が持つ演奏家兼作曲家による名人芸の追求としての性格はロカテッリ、タルティーニ、プニャーニ等によって受け継がれ、技巧色を強めていった。またルクレールはこれらの流れとフランス宮廷音楽を融合させ、フランス音楽の基礎を築いた。
18世紀後半にはマンハイム楽派が多くの合奏曲を生み出す中でヴァイオリンを中心としたオーケストラ作りを行った。そしてハイドン、モーツアルト、ベートーヴェン、シューベルト等のウィーン古典派によって、室内楽・管弦楽におけるヴァイオリンの位置は決定的なものとなった。またトルテによる弓の改良は、より多彩な表現を可能にし、ヴィオッティとその弟子クロイツェル、バイヨ、ロードによって近代奏法が確立されていった。
19世紀になると名人芸的技巧がヴァイオリン曲の中心的要素とされ、高度な演奏テクニックを見せつける曲が多く出た。その極限がパガニーニである。一方でイタリアではオペラの流行とともにヴァイオリンの人気は少しずつ衰えていった。
19世紀中頃からはヴァイオリン音楽において、演奏家と作曲家の分離の傾向が強く見られるようになった。当時の名演奏家に曲が捧げられたり、あるいは協力して作曲することが多く、例えばメンデルスゾーンはダーフィト、ブラームスはヨアヒムといった演奏家の助言を得て協奏曲を作っている。またチャイコフスキーやドヴォルザーク、グリーグ等によって民族的要素と技巧的要素の結合が図られ、シベリウス、ハチャトゥリアン、カバレフスキー等に引き継がれている。
木製だが、部位によって使われる木は異なる。一般的に表板は柔らかい木、側板と裏板には硬い木が好まれる。多くは前者に唐檜、後者に楓を用いる。指板は現在では黒檀が使われる。
表板の裏側には力木(ちからぎ)と呼ばれる部品が張りつけられる。これは表板を補強するとともに、特に低音の響きを強める役割を果たす。
ヴァイオリン内部は空洞となっており、内部には魂柱(こんちゅう)と呼ばれる木の柱が入れられている。魂柱は表板と裏板を支え、振動を伝え、音質を決定する大切な役割を果たす。力木、魂柱も多くは唐檜で作られる。
指板にはフレットが存在しない。
指板の先には弦の張力を調整する糸巻き(ペグ)がついている。先端の渦巻きは装飾で、この部分に別の彫刻(人、天使、ライオン等の顔)が施される場合もある。
ヴァイオリンには保護のためニスが塗られているが、これは楽器の光沢を増し見た目を美しくしている。なおニスと音質との関係については下部「ニスと音響」を参照。
4本の弦は緒止め板(テールピース)から駒の上を通り、指板の先にあるナットと呼ばれる部分に引っ掛けてその先の糸巻き(ペグ)に固定されている。正面から見て左が低音、右が高音の弦であり、高い音の弦から順に、E線、A線、D線、G線(えーせん、あーせん、でーせん、げーせん。ドイツ語読み)と呼ぶ。
もともとはガット(羊の腸)を用いていた。しかし標準ピッチが上昇するにつれ弦に高い張力が要求され、現在のガット弦は金属の巻線によって補強されている。金属だけのものや合成繊維(ナイロン弦)のものも多く用いられる。
弦は弓でこすることで振動し、その振動は駒と魂柱を経て表板から裏板に伝わる。一方表板の振動は側板を通じても裏板に伝わり、全体で共鳴箱としての役割を発揮する。この時f字孔の存在によって音響はより効果的となる。音色は弦の種類や運弓法によって変わってくる。
音色は楽器ごとにも特色が出てくる。ただこれらの音の違いがどうして生み出されるのかは、音響学上はっきりしない点が多い。ストラディヴァリウスなどの名器がなぜ素晴らしい音を出すのかと言うと、元々の製作精度の高さと経年変化による恩恵が大きいとされている。
ニスは本来楽器を保護するために表面に塗られるが、これが音質にどのような影響を及ぼすのかについては多くの議論がなされてきた。一般的にはニス自体が楽器の音質を良くするわけではないと言われている。
通常の大きさ(4/4)の他に、子供向けにサイズを小さくしたヴァイオリンも作成されている。1/16,1/10,1/8,1/4,1/2,3/4,7/8と呼ばれるサイズなどがあり、これらを分数楽器という。
なお、これはヴァイオリンにブリッジ型の肩当てを使用している場合である。
左手の人差し指、中指、薬指、小指で弦を押さえ、右手で弓を操作する。左手の親指は音程を定める基準となる。右手による弓の操作をボウイング(bowing)と呼び、単純ながら熟練を必要とする。特にボウイングの際には手首と指の関節が滑らかに動くように注意して練習する必要がある。(運弓について詳しくはボウイングの項を参照)ボウイングは、ヴァイオリンから出る音色を大きく左右させるものであり、ヴァイオリンを弾く上で重要な事である。
ヴァイオリンは、弓の持ち方、演奏姿勢などが自己流に陥りやすく、独学は難しい。そのため、初心者は熟練者に指導をしてもらうことが望まれる。
普通は音叉などでA線を440ないし442Hzに調弦し、A線とD線、D線とG線、A線とE線をそれぞれ同時に弾いて、その和音で調弦する。バロック音楽などを演奏する時には意図的に低ピッチにして、A線を430Hzほど、あるいはそれ以下にすることもある。
各弦は、指で押さえない状態(開放弦)から一音高い状態を人差し指、順に中指、薬指、小指として、小指で押さえた状態が右となりの弦と同じ音になる。例えばE線では、何も押さえないとE(ミ)、人差し指で押さえるとF(ファ)となる。
Violin_position01.png この状態が第一ポジション(first position)であるが、ここから左手を少し手前に動かし、開放弦より二音高い状態(第一pos.より一音高い音)を人差し指で押さえるのが第二ポジション(second position)、三音高い状態を人差し指で押さえるのが第三ポジション(third position)である。一方で第一ポジションより半音低くした状態で押さえる半ポジション(half position)も存在する。
高ポジションを利用するのは基本的には第一ポジションではとることのできない高い音程を出すためであるが、音色を変化させるためあえて用いる時もある。E線の華やかな音を避けたり(A線を用いる)、G線の高ポジションにおける独特の美しさを出す場合である。G線上のアリア(J.S.バッハの管弦楽組曲の第3組曲第2曲をヴァイオリン独奏用に編曲したもの。移調され、全てが一番低音のG線のみで演奏されるため、単純ながら非常に奥の深い曲となっている)が好例。
ポジショニングは理論上はいくらでも高次の物があるが、特に高いポジションで弾きこなすには熟練を必要とする。
歴史的な擦弦楽器では、弓は張力を小指で調整していたため、張力をゆるめることで3または4つの弦に同時にふれさせることができた。現代のヴァイオリンはその構造上、完全な和音は2音が限界である。3, 4つの音の和音を出すには、弓で最初低音の2弦をひき、素早く高音の2弦に移す。
ビブラートはよく使われる演奏技術であり、指を震わせて音を低音側に素早く振動させ、深みを与えるものである。左腕を動かすことによってその動きを指先に伝えるビブラートや、左手の手首から先を震わせるもの、指のみを震わせるビブラートなど、たくさんの方法がある。ただし、ビブラートを高音側にかけるのは美しくないとされる。
本来、指で弦を押さえる時は、指板に指を押さえつける。しかし軽く弦に触れる程度にすると、倍音を出すことが出来る。この奏法をフラジオレット(ハーモニクス)と呼ぶ。 例えば、A線の弦を二分する部分に指で触れ、音を出すと、2倍音(1オクターブ上の音,この例ではAの音程)が出、三分するような点に触れて音を出すと3倍音(1オクターブ+五度上の音,この例ではEの音程)がでるといった具合である。 このようにして出した音は、通常の音と比べ特色があり、高く、透明で美しい音になる。フラジオレット奏法の記号は、○で、これを音符の上に書く。
まれに、弦の3等分点に触れる奏法が用いられる。完全5度上に軽く触れることで1オクターブと完全5度上の音が出る。
ピチカートは弦を弓で弾かずに、指で弾(はじ)く奏法。楽譜には pizz. と書かれる。 はじき方は決まっておらず、右手人差し指や中指を使うことがほとんどであるが、左手で行う奏法もある。通常は、ヴァイオリン本体を顎に乗せ、弓を持ったまま指で弾く(とある楽章全てがpizzだけで構成されているときなど、弓を持つ必要の無い場合は弓を置いて行うこともある)が、ギターのように腰のあたりにヴァイオリン本体を抱えて弾く方法もある。
كمان | Цигулка | Violina | Violí | Housle | Ffidl | Violin | Violine | Violin | Violono | Violín | ویولون | Viulu | Violon | Violín | כינור | Hegedű | Biola | Fiðla | Violino | ಪಿಟೀಲು | 바이올린 | Smuikas | Vijole | Виолина | Viool | Fiolin | Fiolin | Skrzypce | Violino | Скрипка | Violina | Violin | Violina | Виолина | Fiol | Keman | Скрипка | Vĩ cầm | 小提琴