タイムシェアリングシステム(Time Sharing System、TSS)とは、1台のコンピュータのCPUの処理時間をユーザ単位に分割することにより、複数のユーザが同時にコンピュータを利用できるようにしたシステムのことである。当初は、メインフレームで開発された技術であったが、現在では、パーソナルコンピュータであってもオペレーティング・システムの制御により同様の処理を行うことができる。
ただし、前述の解決法(使っていない時間を他のユーザーに割り当てる)だけでは、完全なタイムシェアリングシステムを構築することはできない。各々のユーザーがあたかもコンピュータを占有しているかのようにスムーズに使えるようにするには、タイムシェアリングシステムは入出力で一時停止状態になることがあまり無いプロセスについても考慮しなければならない。つまり、使っていない時間だけユーザーを切り替える方式ではそのようなプロセスは切り替えるタイミングがなく、結果として他のユーザーにCPU時間が割り当てられなくなってしまう。このため、動作中のプロセスをタイマー割り込みによって停止させ、別のプロセスにCPU時間を与える機能が必要となる。
タイムシェアリングシステムと対話型コンピューティングという概念は切り離せない関係であるが、この考え方について後世に最も影響を与えたのはJ.C.R.リックライダーが1960年に発表した Man-Computer Symbiosis(人間とコンピュータの共生)という論文である。
タイムシェアリングシステムは一時期、大変な隆盛を迎えた。その経済的な誘因となったのが「グロッシュの法則」と呼ばれるものである。それは、「コンピュータの性能はその価格の二乗に比例する」というものである。マイクロプロセッサが登場するまで、これは「ムーアの法則」と同程度に現実を表していた。これによれば、1000万円のコンピュータは500万円のコンピュータの4倍の性能があり、5000万円のコンピュータは1000万円のコンピュータの25倍の性能があるということになる。したがって、1000万円のコンピュータを25台購入して個々人に割り当てるよりも、5000万円のコンピュータを25人で共有したほうが経済的だったのである。
代表的なタイムシェアリングシステムを採用したOSには、IBM社製メインフレームコンピュータ用のMVSがある。
実際の最初のTSSの開発は、MITのコンピュータ・センターのロバート・ファーノらが行ったもので、1961年11月に Compatible Time Sharing System(CTSS)を開発してデモンストレーションを行った。CTSSは同時に 3人のユーザーがコンピュータを使用して独立に処理を行えることを立証し、1973年まで実際に使われていた。最初の商業的に成功したTSSであり、1960年代後半から1970年代前半にかけて最も広く使われたTSSは Dartmouth Time-Sharing System(DTSS)であり、1964年にダートマス大学で開発された。DTSSは後にゼネラル・エレクトリック(GE)社が商用化した。DTSSはユーザーインターフェイス用にBASICを採用したことでも有名である。
また、J.C.R.リックライダーは1962年にARPAの情報処理技術部門を任されると、対話型コンピューティングに関する研究プロジェクトに多額の資金を投入した。そのひとつがMITで行われたProject MACであり、IBMとの共同開発によるTSSが1963年に稼働している。このシステムはすぐに過負荷状態となり、さらなるTSSの開発が計画されたが、IBMはシステム/360をTSS用に改造することに消極的だったため、GEとMITとベル研究所によるMulticsの共同開発が1964年に開始された。
1960年代後半になると、「コンピュータ・ユーティリテイ」というコンセプトが話題となる。これはTSSを活用して電話回線でコンピューティングサービスを提供するビジネスである。1967年にはTSSサービス会社が全米で20社にもなったという。しかし、これは一種のバブルであり、1971年には多くの会社の経営が行き詰った(生き残った会社は後にインターネット・サービスプロバイダとなったところもある)。また、Multicsの開発も行き詰まり、1969年にはベル研究所が手を引き、1970年にはGEがコンピュータ開発そのものから撤退してしまった。
しかし、ベル研究所はMulticsの反省点を生かしてUNIXオペレーティングシステムを開発することになる。また、J.C.R.リックライダーの描いた対話型コンピューティングという概念と彼がARPA時代にまいた種は後のインターネットとパーソナルコンピュータに大きな影響を与えた。
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