| サルモネラ属 | ||||||||||||
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| Salmonella_Typhimurium_Gram.jpg | ||||||||||||
| 分類 | ||||||||||||
| 界: | 真正細菌 |
| 門: | Proteobacteria |
| 綱: | Gamma proteobacteria |
| 目: | Enterobacteriales |
| 科: | 腸内細菌科 Enterobacteriaceae |
| 属: | サルモネラ属 Salmonella |
Salmonellaという属名は、1885年にアメリカでサルモネラ属の基準株であるブタコレラ菌(S. Choleraesuis)を発見した細菌学者、Salmonにちなんで名付けられた。ただし、サルモネラ属に属する細菌の分離はそれ以前から行われており、ヒトに対する病原性サルモネラとして最初に分離されたのはチフス菌(S. Typhi)である。チフス菌は1880年にEberthにより命名され、1884年にゲオルグ・ガフキーがその純培養に成功した。
サルモネラ属の分類は真正細菌の中でも最も混乱の大きいものの一つであり、分類と学名表記を統一するための裁定が頻繁に行われている。古典的なサルモネラ属の分類は、O抗原とH抗原の組み合わせに基づいたもので、1926年にWhiteが提唱し後にKaffmannが拡充した、Kaffmann-Whiteの抗原表に従って行われてきた。この旧分類では、例えばサルモネラ属のうちO9:Hdという抗原型の組み合わせを持つものをS. typhi(旧和名:腸チフス菌)という一つの生物学的種として扱っていた。しかしこのKaffmannらの分類は、抗原型が異なる細菌は別の生物種として命名できるという考えに従っていたため、その後、細菌学分野全体として生化学的、遺伝子学的分類が行われるようになると齟齬を生じる結果になった。そこで1985年には生物学的分類と整合させることを目的にS. choleraesuisの1属1種とすることが提案され、2002年にはS. entericaの1属1種とすることが正式菌名として承認された。さらにその後、2005年にはS. entericaとS. bongoriの1属2種とし、entericaの下に6亜種を設ける分類法が裁定され、現在に至っている。
この分類法によると、チフス菌やパラチフス菌、食中毒性サルモネラなどの病原性サルモネラは、ほとんどS. enterica subsp. entericaに属する。この亜種の中で、さらにKaffmann-Whiteの分類に準じた抗原性の違いに基づく、血清型(serovar)による分類がなされており、例えばチフス菌の正式な学名は「Salmonella enterica subspecies enterica serovar Typhi」となるが、subspecies entericaを省略して、S. enterica serovar Typhiと略記してもかまわないことにされている。なお正式に認められたものではないが、これをS. Typhiと略記することもしばしば行われており、本項目でもこの略記法に従って表記している。また研究者によっては旧分類名であるS. typhiやS. choleraesuisを用いる人も未だに存在している。
2005年に裁定された分類ではサルモネラは以下のように分類されている。血清型(serovar)については特に代表的なものだけを記載した。
サルモネラは大腸上皮細胞の表面に付着し、そこで上皮細胞にIII型分泌装置を突き刺し、その内部にエフェクター分子を送り込む。このとき送り込まれるエフェクター分子(サルモネラ染色体上のSPI-1領域の遺伝子にコードされた、Sop、Sipなどのタンパク質)は、細胞骨格を構成するアクチンを再構成する作用を持っており、この作用によってサルモネラが付着した周辺で細胞の形態が変化(ラフリングと呼ばれる構造変化)して、付着した菌体周辺で偽足のような構造が発達する。この偽足様構造の発達は上皮細胞のエンドサイトーシスを促進し、このエンドサイトーシスによってサルモネラは上皮細胞内に取り込まれる。上皮細胞に取り込まれたサルモネラの一部はオートファジーによって分解されるが、残りはそのままエンドソームの内部で増殖する。このような機構の細胞内感染を行うものには、サルモネラの他に赤痢菌や一部の病原性大腸菌(腸管侵入性大腸菌、EIEC)がある。
マクロファージは食菌に特化した細胞で強い殺菌機構を有しており、貪食した異物をファゴソーム(食胞)という小胞に取り込み、これと細胞内のリソソームが融合してファゴリソソームを形成することで、リソソーム内部のさまざまな分解酵素群や活性酸素などの働きで分解する。非チフス性サルモネラを含めて、多くの細菌はこの機構によって殺菌され分解される。
これに対してチフス菌は、ファゴソームの内部からその小胞膜を介してIII型分泌装置を細胞質側に突き刺し、SPI-2と呼ばれる遺伝子領域にコードされた、チフス菌特異的なエフェクター分子群を宿主細胞質に注入する。このエフェクター分子群は、ファゴソームとリソソームの融合を阻害する作用を持ち、これによってファゴリソソームの形成が抑制される結果、チフス菌は食菌を回避することが可能になる。リソソームとの融合が阻害されたファゴソームは、やがてSCV(salmonella-containing vacuole)と呼ばれる特殊な形態の小胞になり、チフス菌はこの内部で増殖を行う。この感染マクロファージがリンパ管から血液に移行することによって、チフス菌もまた血液に入り込み、菌血症の発生につながる。サルモネラと同じような機構でマクロファージによる殺菌を逃れる細菌にはレジオネラやブルセラがある。また結核菌もファゴソームとリソソームの融合を阻害する性質を持つ点で、サルモネラに類似の殺菌回避機構を持つと言える。
チフス性サルモネラはヒトのみに感染する細菌で、患者の糞便から別のヒトに感染するほか、糞便によって汚染された土壌や水の中に残存しているもの(これらの自然環境中ではほとんど増殖しない)が感染源になる。これに対して食中毒性サルモネラ菌はペットや、家畜の腸管に常在菌として存在する人獣共通感染症であり、そこから汚染された食品などが食中毒の原因となる。食品衛生の分野では、この食中毒性サルモネラを問題にして扱うことが多く、以前はサルモネラ菌、サルモネラ菌属という名称で呼んでいたが、1998年にはサルモネラ属菌という名前に変更され、食品衛生上はこれが正式な名称として扱われている。また、オーラルセックスなどにより感染することもあり、性感染症としてとらえられる場合もある。
代表的な原因菌には、S. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Choleraesuis、S. Dublinが挙げられる。従前のサルモネラ属菌による食中毒は、ネズミが媒介するS. Typhimuriumなどによるものが多く、衛生状態の向上により過去のものと思われがちだが、近年、感染力が強いS. Enteritidisの鶏肉や鶏卵を介した食中毒が増加し問題になっている。
鶏卵のサルモネラ汚染は、かつてはニワトリの消化管内に寄生したサルモネラが総排泄腔で卵殻の外側を汚染するためと考えられた。そのため、汚染防止には鶏卵の洗浄が有効とされた。しかし、今日ではこうした卵殻の外側からの汚染のみではなく、S. Enteritidisなどがニワトリの卵巣や卵管に寄生し、ここから鶏卵の卵細胞そのもの、つまり卵黄の部分に細胞内寄生したり、その外側の卵白などが保菌することによって鶏卵を汚染していることも知られるようになった。しかもこうしてサルモネラに感染した鶏卵からはしばしば発生を全うして健康な雛が孵化することが知られており、保菌鶏が再生産されることになる。こうした親子間の垂直感染を介卵感染と呼び、衛生状態に十分配慮した鶏舎でも汚染鶏卵や汚染鶏肉が生産される原因となっている。
またミドリガメやトカゲなどに常在しているarizonae亜種によって、これらの爬虫類ペットから感染する事例も報告されている。日本における食中毒発生件数の2~3割がサルモネラ属菌が原因とされている。特に、鶏卵に由来する菓子による大規模食中毒が目立つ。
治療は対症療法とニューキノロン系抗菌剤による除菌になる。しかし、欧米では耐性菌を誘発する、腸内細菌叢を乱し治癒を遅らせるとして、高齢者や小児を除き抗菌剤は投与すべきでないとという考えが主流になっている。止瀉剤は排菌を阻害するので用いられない。
Typhoid_symptoms_ja.png 腸チフスはチフス菌の経口感染により発症する。消化管に到達したチフス菌は、腸管上皮にあるパイエル板に近接するM細胞(絨毛が発達せず、リンパ球やマクロファージに異物の提示や受け渡しを行う細胞)に取り込まれ、これを介してマクロファージによって貪食された後、殺菌を回避して、その細胞内で増殖する。このマクロファージが腸管膜リンパ節に感染を広げることで、チフス菌はリンパ節で増殖し、血液に入り菌血症を起こす。臨床所見では、2週間ほどの潜伏期間の後、段階的に体温が上昇し40℃ほどの高熱が続き、バラ疹と呼ばれる淡紅色の発疹や脾腫などが現れる。続いて、胆汁をとおし腸内に大量に排菌され、重症例では腸壁が壊死を起こし腸管出血が起こる。その後、徐々に解熱し回復に至る。
パラチフスも腸チフスと同様の症状を呈するが、腸チフスほど重篤にはならない。
治療はニューキノロン系抗菌剤の投与が主になるが、ニューキノロン剤に低感受性の菌があり、その場合は第三世代セフェム系抗生物質が使われる。
感染源は人の糞便であるため、衛生状態が高いところでの発生は少ない。アジア、アフリカ、中南米などで流行を繰り返しているが、日本では年間100例ほどが報告され、そのほとんどが海外で感染したものである。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律により二類感染症に指定されており、就労制限、入院勧告などの対象になる。
アメリカでは20世紀初頭にチフス菌の健康保菌者であるメアリー・マローンが、食品関係の職場を転々とし、チフス菌をばらまいて多数の感染者を出し大きな問題となった。
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