クエーサー(Quasar)は、光学望遠鏡では恒星のような点光源に見えるが、非常に大きな赤方偏移を持っている天体。クエーサーという呼称は quasi-stellar object(準恒星状天体)に由来し、日本語でも準星などと呼ばれていた。一般的には、この大きな赤方偏移はハッブルの法則による宇宙論的効果であると考えられており、このことから、クエーサーは非常に遠方にあって通常の銀河数十個分のエネルギーを放出していると考えられている。
クエーサーの中には明るさが急激に変化しているものがある。これはクエーサーの本体が非常に小さいことを示唆している。(天体の明るさが変化するタイムスケールは、光がその天体の端から端まで横断する時間よりも原理的に短くなれないため、変光のタイムスケールから逆に天体のサイズを見積もることができる。)
2003年現在で最も赤方偏移 z の大きいクエーサーは z = 6.4 である*。もしこれより遠くにクエーサーがあれば容易に見つかっているはずなので、我々人類は宇宙に存在する最も遠いクエーサーを観測しつつあるのかもしれない、と考えられている。言い換えればこれは、現在観測されている最遠の(すなわち最古の)クエーサーこそが銀河形成期の最初の天体ではないか、ということを意味する。つまり、最初のクエーサーが現れる時期は、宇宙マイクロ波背景放射が放たれた後、観測可能な天体が何も見つからない暗黒時代の終わりを示しているということである。
クエーサーは活動銀河とほとんど同じ特徴を持つ。すなわち、クエーサーの放射は非熱的放射で、ジェットやローブと呼ばれる構造を持つものもある。クエーサーは電波・赤外線・可視光・紫外線・X線・γ線のあらゆる電磁波で観測されるが、赤外線の放射を観測される場合が多い。
クエーサーはまた、時間とともに明るさが変化することが分かっている。中には数ヶ月、数週間、数日、数時間というスケールで変化するものもある。このことから研究者達は、クエーサーは非常に小さな領域からエネルギーを放出していると考えている。なぜなら、例えば数週間というタイムスケールで変光するクエーサーは、光が光速で数週間かかって進む距離よりも大きくないはずだからである。
観測するクエーサーが、再電離が起こるより前の(赤方偏移が大きい)時代にある場合、クエーサー周辺の銀河間ガスは中性水素の状態になっているため、クエーサーのスペクトルを見ると、水素のライマンα線より短い波長の光は中性水素によって全て吸収され、連続的な吸収領域が見える。逆にクエーサーが再電離後の(赤方偏移が小さい)時期に存在する場合、銀河間ガスは全て電離水素になっているため、ライマンα線より短い波長域には連続的な吸収は見られず、クエーサーと我々の間に断片的に存在する中性水素の雲によって所々に鋭い吸収線が密集するライマンαの森と呼ばれるスペクトルを示す。前者のような連続的な吸収域を持つ古いクエーサーは長く見つかっていなかったが、21世紀に入って z = 6 付近のクエーサーが見つかるようになるとこれらのスペクトルにガン・ピーターソン効果による吸収域が発見され、再電離前のクエーサーではないかと考えられている。
クエーサーのもう一つの興味深い特徴は、ヘリウムより重い元素を含むことが分かっていることである。このことは、ビッグバンの後、最初のクエーサーが生まれるまでの間に銀河が恒星(種族IIIの星)を大規模に生成する時期があったことを示唆している。しかし2004年現在、このような第1世代の星が存在した証拠はまだ発見されていないため、今後数年の間にこの種の星が見つからず、重元素を生み出す他のメカニズムも発見されない場合には、現在我々が考えている初期宇宙のシナリオは大きく修正を迫られるかもしれない。
これらの発見とともに、天文学者たちはこの謎の天体を準恒星状天体 (quasi-stellar object) と呼ぶようになり、「クエーサー (Quasar)」という名前が生まれた。後に、全てのクエーサーが強い電波を放射しているわけではない(実際には全体の約10%である)ことが分かり、現在では電波を放射するクエーサーを 'QSR'(radio-loud quasars)、電波を放射しないものを 'QSO'(radio-quiet quasars) と細かく分類する場合もある。
1960年代に大きな議論の的となっていたのは、クエーサーは近傍の天体なのか、それともその赤方偏移が示唆するように遠方にある天体なのか、ということであった。例えば、クエーサーの赤方偏移はハッブルの法則によるものではなく、重力ポテンシャルの深い「井戸」の中から光が放出されているためではないか、という説もあった。クエーサーが宇宙論的な遠距離にあるという説に対する強力な反論として、もしそれほど遠方にあるのなら、クエーサーが放出するエネルギーは膨大な量になり、核融合など、当時知られているどんなエネルギー変換の過程をもってしても説明できない、という問題があった。その頃提案された仮説の中には、クエーサーが未知の安定した反物質からできているとすればその明るさを説明できるだろう、というものもあった。このような反論は1970年代に入って降着円盤のメカニズムが提案されると否定され、今日ではクエーサーが宇宙論的距離にあるという描像はほとんど全ての研究者に受け入れられている。
このように、ほとんどの研究者はクエーサーが宇宙論的距離にある天体であると考えているが、クエーサーが近距離にあるという証拠を挙げている研究者もごく少数はいる。このような立場をとる代表的な研究者はホルトン・アープで、彼は近距離にある通常の銀河と相互作用を起こしているように見えるクエーサーを数多く撮影し、そのような銀河のカタログを作成している。
1980年代に入ると、クエーサーは単に活動銀河の一種であるという統一モデルが提唱され、クエーサーがブレーザーや電波銀河などの他の活動銀河と異なって見えるのは、単純に地球から見た角度の違いに原因があるという見方が広くコンセンサスを得るようになった。
また、クエーサーの強力な光度は、大質量ブラックホールを取り巻く降着円盤のガスや塵がブラックホールに落ち込む時の摩擦によって生み出されていると考えられている。この物理過程では落ち込む質量の約半分をエネルギーに変換することが可能で、核融合によるエネルギー変換が質量の数%にとどまるのに比べて非常に変換効率が良い。
このメカニズムは、なぜクエーサーが初期の宇宙にのみ見られるのかという問題にもうまく説明を与える。つまり、降着円盤によるエネルギー生成は、大質量ブラックホールの周囲の物質が全て消費し尽くされると停止するのである。このことから、我々の銀河系を含むほとんどの銀河は過去にクエーサーの段階を経験し、現在は中心のブラックホールに質量が供給されていないためにエネルギー放射活動をしない平穏な状態にある、とも考えられる。
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