プロレスにおけるアングルとは、試合展開やリング外の抗争などに関して前もってそれが決められていた仕掛け、段取りや筋書きを意味する。試合自体の進行については「ブック」と呼ばれ、アングルはリング外でのストーリー展開を指すことが多い。アングルの組み合わせや展開が観客動員に大きく影響するため、試合内容と同じ重要性を持つ。
概要
アングルとは試合前後の物語であり、この出来で試合に対する注目度が変わり、観客動員数に影響を及ぼす。
プロレスの興行における試合をより興奮度の高いものにするため、『マッチメーカー』や『シナリオライター』と呼ばれる人間が筋書きを作っている。日本国内のプロレス団体では、主にレフェリー等がその役割を務めるが、WWEでは、アングル専門の放送作家が作る。国内では元新日本プロレスのミスター高橋、海外ではWWEのポール・ヘイマン等が代表。詳細はマッチメイクの項を参照とのこと。
基本的にはマッチメーカーによって作り出される物だが、試合中のアクシデントやインタビューなどでの発言から、アングルが発生することがある。これを「ナチュラルアングル」と呼ぶ。このナチュラルアングルにマッチメーカーがさらに物語や演出を補足することもある。
アングルのストーリー展開はテレビ放送、プロレス専門誌・スポーツ新聞、団体のWebサイトなどで告知される。試合の当日、会場で観客が観戦の焦点を定めやすくするため告知は欠かせなくなっている。団体によっては試合前にVTRやマイクで今までの物語の進行状況を説明することもある。
アングルはある程度の期間をかけて展開・消化するが、観客からの反応が鈍い場合、展開に不都合が発生した場合などには中断し、そのまま他のアングルを展開することにより消滅させる。団体が不安定な時期には、アングルが乱発されることが多い。
また、継続する予定は無くとも、紙面に掲載される様な話題を一時的に設定することで宣伝効果を得ることが出来る点も利点。プロレス団体の大半は企業広告を行う程の財務規模を持たないため、無料に近い低コストで団体名を紙面に掲載させられるアングル展開は重要なものとなっている。
団体による差
団体によってアングルの使い方や内容に差がある。新日本プロレス、およびその派生団体(以下、新日本系)はリング外でのアングル展開を重視し、集客を高めようとする傾向が高い。それに対し、馬場~三沢体制下の全日本プロレスやその派生団体であるプロレスリング・ノア(以下、旧全日本系)はリング外での因縁や抗争アングルを使用することは皆無である。新日本系団体はアングルの終着として試合を行うが、全日本系はあらかじめ発表された試合に対して、両者が対抗感を高めていく手法が中心。
また、新日本系は団体内でのトラブルをアングル化する「スキャンダルのアングル化」を常套手法としてきた。
アングルの例
以下はアングルの代表的なもの。複数を組み合わせることが多い。
抗争アングル
対立関係や概念を設定することにより、試合を単なる点として終わらせず、連続的に展開させるためのもの。シリーズで展開する場合は主に
タッグマッチで展開し、一進一退の勝利の奪い合いを行って、決着戦への流れを作る。逆にシリーズ前に最終戦での試合をあらかじめ発表しておき、シリーズ途中で対立関係を醸成するという方法を取ることもある。
- 二者間による軋轢を展開する。着後、両者によるチーム結成や、軍団抗争へと派生するなど、個人抗争はアングルの基本である。対立関係を設定するためには以下の様な方法を使うことが多い。
インタビュー:
- 主に専門誌やテレビなどを起点とする。インタビューで他選手に対する批判や中傷を行う。格上のものであれば「提言」や「説教」といった含みを持たせる。これに反発させ、舌戦を展開することにより、試合への物語を作っていく。テレビの場合、インタビュー中に対立関係にある相手が乱入する、という演出が施される場合もある。
- 後述の軍団抗争や団体対抗の中で用いられる。不透明決着を発生させ、それに対して不満を持つ形で複数名が入り乱れて乱闘する。その中で、手を出すなどの接触を起こし、両者間に「因縁」や「遺恨」といった対立関係を設定する。事故の形を取ることが出来るため、両者間に格の差があっても対立させやすいことがメリット。
- 主に団体内でのグループ間による争い。反乱を起こすグループと、起こさなかったグループ(正規軍と称される)間の戦い。三つ以上のグループが争う場合もある。グループ同士の抗争を中心とし、内紛や裏切って他グループへ移籍する、などの展開が定番である。試合編成上の都合上、同グループに所属する選手が試合を行う場合は「結束・信頼を確認するために」といった目的を設定して行われることが多い。基本的に完全決着は無く、新しい軍団の結成により分布図を再編成して続けていく。特に日本のプロレスで発展したアングル。
- 異なるプロレス団体(興行会社)間での業務提携。会社単体では行えない試合編成が可能。エース同士の試合が行われ、初戦で敗退したエースの所属する団体は「格下」とされ、早晩活動停止に陥る場合が多い。しかしながらエースが敗退せざるを得ない状況になっている時点で、その団体は経営的に何らかの問題を抱えている場合がある。トップクラス同士の対戦は、1勝1敗のイーブンスコアで終了したり、30分1本勝負で時間切れ引き分けにすることが基本。これにより、両者は互角であるとされ、格の低下を避ける。
- 団体対抗の利点は、団体の通常運営において活躍の場を与えられない、あるいは人気の低いレスラーを再利用できることにある。中堅選手を他団体の選手と戦わせることにより、「隠れた実力者」「重鎮」といったギミックを付与させることが出来るためである。
- また、他団体へ参戦する前にはチャンピオンベルトを他の選手に引き渡して、他団体で敗北した際にベルトの価値を傷つけないようにするといった配慮がなされることが多い。対抗戦が乱発される時期は、団体経営が傾き終息に向かう兆候である。日本での近年の成功例としては新日本プロレスとUWFインターナショナルの対抗戦。提携終了後に単独興行の観客動員数が落ち込むことがある。
負傷アングル
- ケガをめぐるアングル。負傷箇所への攻防が決着戦でのキーポイントとなる。ただし、相手を故意に負傷させるプロレスラーは好まれないため、持病箇所を再発させる、もしくは偽のケガをしてギプスやニーブレスを着用する、などの形を取る。また、負傷アングルはレスラーが他の何らかの事情で欠場する場合にも使われることがある(契約で定められた休暇期間の消化など)。
特訓アングル
- ボクシングや柔道の道場に入門し、その代表的な技を習得する。または、新しいプロレス技や、タッグの場合はコンビネーションを開発する。この技を後の試合での焦点として設定することが目的。また、アングルの中では最も容易に作ることが可能なため、話題の乏しい際に用いられることが多い。逆に言えば、技アングルが多い時は団体が苦しい時であるとも言える。
- 新しい技の名前を前もって明かし、観客の期待感を煽った後に出す、というものもある。技の名から動きが予想できないものが多い(サンダーデスキック、秩父セメントなど)。
- また、後述の回顧アングルの様に、技の伝承を現役レスラー間で行うのも一般的。継承という目的を設定することにより、両者を目立たせることが出来ることが利点。特に話題の無い若手に、ベテラン選手が技を教えるというのが一般的。
- 耐久力や敏捷性向上を目的としたトレーニングを公開する。バットや竹刀で殴打する、自然物を破壊するといった超人的行為で、選手の頑強さを演出する。対戦相手の得意技に対抗する、というものが定番。闘魂棒トレーニングなどがその代表例。
海外遠征アングル
売り出したいレスラーの格上げや、一時的にリングから姿を消すことにより成長の要素を付与する。対象は若手がほとんど。帰国後は格上のレスラーから勝ちを収めたり、軍団を結成したりとその団体のシナリオの中核に置かれることが多い。帰国後のある程度の期間に観客からトップレスラーとして認識されなかった場合、中堅のポジションが与えられるが、こうなると引退するまで中堅に留まることが多い。
懐古アングル
引退した著名レスラーを訪問し、指導を受けるというもの。特訓アングルと同じ様にそのレスラーの代表的な技を継承することがある。通常、痛め技・繋ぎ技と呼ばれる試合中盤で用いられる技をフィニッシュホールドに格上げするために使われる。またペイントやコスチュームなどの
ギミックの一部を継承する、といった目的にも使われる。
また、試合数を限定して復帰する、復活アングルも存在する。坂口征二が数試合限定で復帰した場合は、息子で俳優の坂口憲二をセコンドに付け、血縁アングルとの複合展開で注目を集めた。
アナウンサーアングル
レスラーとテレビ放送のアナウンサー(主にテレビ局所属のアナウンサー)とのやりとり。主にアナウンサーの実況内容を批判することが起点となる。レスラーが軍団に所属する際はそのTシャツを着用するかどうか、アナウンサーのメガネを壊す、友情を芽生えさせる、などである。近年の人気を集めたアングルは
ワールドプロレスリングにおける、
蝶野正洋と
辻よしなり、
大仁田厚と
真鍋由の組み合わせ。
引退アングル
シリーズやツアーの前に引退を表明し、後継者に対しての継承を行ったり、観客に感謝の意を伝えるというアングル。
プロレスラーに厳密な引退は存在しないため(詳細はプロレスラーの項を参照)、
大仁田厚を筆頭に引退しても復帰するレスラーは多い。
血縁アングル
レスラーとその家族(実際の血縁者とは限らず、血縁というギミックを付与された者が担当することもある)との和解や確執を巡るアングル。
WWEでよく使われる。日本ではレスラーおよび団体関係者以外がアングルに絡むことはほとんど無い。日本の数少ない中で有名な例は
安田忠夫が「INOKI BOM-BA-YE 2001」において、付与された娘との和解アングル。中継した
TBSは安田が娘と公園で話したり、招待券を渡すという演出を施し、結果として大成功を収めた。この成功により、TBSは自局の格闘技中継において選手に「家族」という要素を絡めてショーアップする手法を定番化させた。特にギミックとして昇華出来るほどの要素を持たない場合、「家族の生活のため」「家族の病のため」といった普遍性が高く、比較的感情を動かしやすい演出を加えることが出来るためである。
関連図書
ミスター高橋:著
- 『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』講談社プラスアルファ文庫
- 『プロレス至近距離の真実レフェリーだけが知っている表と裏』講談社プラスアルファ文庫
- 『マッチメイカー プロレスはエンターテイメントだから面白い』ゼニスプランニング
プロレス | Angle (professional wrestling)