貨幣(かへい)とは、「価値の尺度」「交換の媒介」「価値の保存」の機能を持ったモノである。本来貨幣とは本位貨幣(本位金、銀貨)を指す言葉であったが、現在では狭義には、補助貨幣としての硬貨を指し、広義には紙幣及び銀行券を含む通貨(=お金)の意味がある。
したがって、現在の日本の法律上の貨幣とは、昭和23年以降に発行された五円硬貨、昭和26年以降の十円硬貨、昭和30年以降の一円硬貨と五十円硬貨、昭和32年以降の百円硬貨、昭和57年以降の五百円硬貨と、昭和39年以降記念のために発行された千円硬貨、五千円硬貨、一万円硬貨、五万円硬貨、十万円硬貨を指す。
なお、貨幣をみだりに損傷・鋳潰しすると、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる(貨幣損傷等取締法)。
貨幣の重要な機能として、次の3つが挙げられる。 これらの機能は資本主義経済の成立において極めて本質的な役割を果たしている。
「貨幣の価値」は「貨幣のモノとしての価値」とは異なる。例えば、モノとしての千円札は単なる印刷物でしかない。物々交換の社会において「千円札」の商品価値は「千円で売られているランチ」の商品価値に及ぶはずもない。つまり、貨幣の価値は、貨幣として用いられるモノの価値から本質的に分離されているのである。
貨幣(として用いられるモノ)が額面通りの価値を持つためには、その貨幣に信用があることが必要かつ十分である。自分の他にも「この貨幣には額面通りの価値がある」と信じる者がいなければ、その貨幣が取引の媒介として流通することはない。また、あるモノの価値を信じる人が複数いれば、そのモノは彼らの間で貨幣として流通することができる。
あるモノが交換の媒体として通貨になるには、交換可能性が重要になる。
物々交換の社会において、自分の作ったトマトを他者のモノと交換することは可能であろう。しかし、トマトをレモンと交換するのは至難である。なぜなら、取引相手としてレモンをトマトと交換したい人を見つけなければならないからである。このように二重の一致を見つけるのは難しい。そのため、皆はなるだけ皆が欲しがるモノに一度交換しようとするようになる。それは、あるときは米であり、貝・石であり、金であった。それらのモノ(貨幣)に交換すれば、同じくそのモノ(貨幣)に交換しようとする「誰か」が持っている自分の欲しいモノに交換することが出来る。このような共通の交換媒体は次第に経済の中で収斂され貨幣として機能するようになった。これらのモノ(貨幣)が価値をもつのは、それが多くのモノに交換可能なモノであるからである。こういった価値を交換価値といい、使用価値とは区別する。
当初、貨幣は①誰もが欲しがり、②集めたり分けたりして任意の値打ちを表すことができ、③容易に持ち運び、保存できる品物、として稲、矢じり、砂金、麻布等が多く用いられた。その後、金・銀が頻繁に使用されるようになる。金銀などの貴金属は、広く世界的に使用される貨幣となった。
中世末期に入って、欧米では大航海時代・価格革命から商業的に大量の金銀が使用されるようになる。この金銀をそれまでのように取引に使用していては、盗難や磨耗の危険がある。そのため、人々は金銀を貴金属細工商の金庫に預け、代わりに証書を受け取った。証書はいつでも金銀に交換可能なため、紙切れでありながら価値を持った。人々は、やがて証書を使用して取引をするようになる。これが、現代の紙幣の先祖にあたる。証書を発行していた商人は、金銀が頻繁に引き出されなくなったため、証書を金銀の裏づけの無いまま発行して融資する業務を開始した。これが、現代の銀行の先祖に当たる。時代が下って、様々な商人が証書を発行するようになったため、これらの「銀行」が統一され紙幣発行権限をもつ中央銀行となった。諸銀行は、証書(紙幣)を預かる商業銀行となって現在に続いている。これらの、金の裏づけを持った証書(紙幣)の通貨制度を金本位制と呼ぶ。金本位制は度重なる変遷を得た後、第一次世界大戦から世界恐慌頃に相次いで停止され、第二次世界大戦後はブレトン・ウッズ体制下において、ドルのみが金と兌換でき、その他の通貨はドルと固定相場制をとることで価値を保証した。ニクソンショック後は、ドルと金の兌換が停止され、主要国は変動相場制へ移行。主要な通貨は、戦後に急成長した実体経済の経済力を背景に価値をもつこととなった。なお、現在でも信用力が低い国などが、ドルと固定相場制をとって(あるいは、ドルそのものを自国通貨とすることで)価値を保証している場合がある。
現代経済においては、国家は流通の安定のために法律によって強制的に通貨に通用力をもたせている。これを特に法貨・信用貨幣という。このため、交換の媒介として所定の通貨を用いることを拒否することは通常出来ない。
なお、古代においては全く価値体系の違うモノとも交換を可能にする貨幣に対して、異界(あの世)との仲立ちなども可能であるとする宗教的な意味を持たせる事があった。日本最古の貨幣とされる富本銭が流通目的に鋳造されたのではなく厭勝銭(まじない銭)目的であったとする学説や、三途の川の渡し賃として6文銭を棺に入れたと言う古い慣習、古い寺院跡の発掘の際に古銭が併せて出土される事実など、貨幣と宗教の繋がりを想起させる話が多く残されている。
時代が下ると、金など貴金属が貨幣として使われるようになった。世界初の鋳造貨幣は紀元前7世紀にリディア王国で作られた。また、中国では原始貨幣をかたどった鋳造貨幣が作られた(貝貨・刀貨・布貨)。金属は保存性・等質性・分割性・運搬性など貨幣としての必要な条件をよく満たしていることが普及につながった。なお、世界初の紙幣は宋代に鉄銭の預り証として発行され利用されるようになった「交子」である。
飛鳥時代の和銅元年(708)から平安時代中期の天徳2年(958)まで250年間に、和同開珎から乾元大宝までの12種類の銅貨が発行された。朝廷が発行したことから皇朝十二銭と呼ばれている。原材料の銅の不足と、改鋳益を得るため、改鋳の度に目方と質が落ちた新貨を旧貨の10倍の価値で通用させようとしたことが貨幣の価値や信用を大きく低下させ、民衆の銭離れを引き起こしてしまった(765年の神功開宝の発行の際は、旧貨である萬年通宝と同価での並行通用であった。)。和同開珎発行3年後の和銅4年(707)10月に「蓄銭叙位法(ちくせんじょいほう)」を出して、銭貨は物の売買の交換手段であることを強調している。
江戸時代になると貨幣制度が統一され、江戸幕府が貨幣発行益を独占して金貨(小判・分金)・銀貨・銅貨(銭貨)の三貨を鋳造し、全国通用の正貨とした。まず慶長の幣制による金貨・銀貨の鋳造が行われ、続いて1606年に慶長通宝に鋳造されて皇朝十二銭以来600年ぶりの銅銭の公鋳が始められた。2年後には永楽通宝の流通を禁ずる法令が出されたものの、本格的な通貨鋳造及び全国的な流通に至るのは1636年(寛永13年)に発行された寛永通宝以後の事である(貨幣を発行した場所をそれぞれ金座、銀座、銭座と呼んだ)。金貨・銭貨は計数貨幣(額面価値と枚数で価値を決める貨幣)であったが、18世紀半ばまで銀貨は丁銀、豆板銀といった秤量貨幣(重さで価値を決める貨幣)であった。1765年以降、計数貨幣としての銀貨と併用されることとなる。
江戸では金貨が流通する「金遣い(きんづかい)」であったのに対して、上方(大坂)では主として銀貨が流通する「銀遣い(ぎんづかい)」であった。江戸と上方を中心とする交易上の理由と、金貨・銭貨(計数貨幣)と銀貨(秤量貨幣)の特徴の違いから、日常的に三貨の間で両替商による両替が必要であった。公定相場として金1両=銀50匁=銭4貫文(4,000文)(1609年制定、1700年には金1両=銀60匁に改定)があったが、実際には相場は変動相場制で高度な経済活動が行われていた。後に幕府は南鐐二朱銀を発行して金銀の換算率の統一を図って一定の成果を収めた。幕府貨幣の三貨の他に米も貨幣として流通し、大名領国では藩札と呼ばれる紙幣も発行されていた(一部には銅銭・鉄銭などの銭貨形式で発行されたものもある)。
1897年に日清戦争の軍事賠償金を準備金に設定して、紙幣の価値を金と交換できることで保障した金本位制(公的には新貨条例の際に金本位制が定められていたが、経済力の弱かった当時の日本から大量の金が流失したため、実際上は銀本位制が実施)が実施された。第一次世界大戦の影響を受けて一時金本位制から離脱したが、1930年(昭和5年)1月に世界の体制に習って復帰した。その金解禁も束の間、世界恐慌のために1931年12月に金輸出再禁止が実施され、日本銀行券の金兌換券は停止された。その結果金本位制度から管理通貨制度へ移行し1942年2月制定の日本銀行法により著しく弾力的な管理通貨制度が採用されることになった。
1950年代にアメリカでクレジットカードによる決済が始まり、日本では1960年代から同様のサービスが始まった。貨幣を介せず取引を行う時代が到来し、現在のアメリカでは高額紙幣の信用がクレジットカードに劣るほどである。 ただし、クレジットカードはカード番号の不正利用など問題点がないわけではなく、このような欠点を克服するものとして電子マネーが出現するに至っている。
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