学位(がくい)とは、大学や国家の学術評価機関等において研究者や一定の教育課程の修了者に対して学術上の能力または研究業績に基づき授与される階級別の栄誉称号を言う。
現在の日本の法令に基づく学位には、「博士の学位」「修士の学位」「専門職学位の学位」「学士の学位」「短期大学士の学位」の5種がある。また、学位に準じるものとして、高等専門学校の卒業生に付与される準学士の称号や、条件を満たす専修学校の専門課程(いわゆる専門学校)を修了した人に付与される高度専門士及び専門士(準学士に準ずる)、学位に類するものとして、研究業績をあげた人に各大学が独自に授与する名誉博士の称号などもある。
元々、日本の学位は、学術上の栄誉称号として発展を遂げ、文部大臣が博士会の推薦を経て授与するものであった。現在の学位は、大学等が授与し、世界的にも法的にも認められているものである。様々な種類があるが、一般的には「博士の学位」を指して「学位」と呼ぶことも多い。
アメリカ合衆国のロースクールにならって日本全国の大学に設置認可された法科大学院のすべてにおいては一律、「法務博士(専門職)」(Juris Doctor)の学位が授与される。その他の分野においても各大学により多彩な専門職学位が授与される(#日本における学位制度、専門職学位も参照)。
また、学位の他、日本で付与されている称号には、「準学士の称号」「専門士の称号」「名誉博士の称号」などがある。準学士の称号は、高等専門学校を卒業した者に学校教育法に基づいて付与される。また、専門士の称号は、一定要件を満たす専修学校の専門課程(専門学校)を卒業した者に文部科学省告示に基づいて付与されることとなっている。名誉博士については、教育機関が著名な研究を行った者などに独自に与えることが日本でも増えてきている。
また、学位規則においては、学位を表記する時に授与した大学又は大学評価・学位授与機構の名称を付記することになっている。
学位と称号とでは、国際通用性の有無などの違いこそあるが、教育課程としての程度は同じであると判断され、その後の進路においても短期大学士・準学士・専門士はともに4年制大学の学部3年生に編入学することができる。さらに、学部及び高度専門士付与校たる専修学校を卒業した者は、大学院修士課程及び専門職学位課程への入学資格を認められる。また、2年制及び3年制の大学院修士課程(博士前期課程)と専門職学位課程(法科大学院及びその他の専門職大学院)は教育機関としての趣旨や認定する能力にこそ違いはあるが、ともに大学院博士課程(博士後期課程)への入学資格を認定される。
教育課程 授与される学位及び称号
※★は学位、●は称号。
博士課程にて学位を取得した場合は「修了」として認定されるが、就職などのために学位を習得する前に中途退学するケースも多い。人文社会系の大学院では、所定の在学期間(3年間)在学し、修了に必要な単位を全て取得してはいるものの、学位論文だけが完成しないまま就職することも多く、こうした場合「満期退学(単位取得退学)」と言う。在学年数を越えて大学院に留まる場合は研究生として在籍するケースもある。また、2005年の文部科学省中央教育審議会において文部科学大臣への答申の中で博士課程に社会人コースを設置し、社会経験にて実績のある人物の場合は1年間の在籍期間中に学位取得を志すことができるようにすべきだとされた。つまり、大学院の博士課程に社会人コースが設置された場合、1年間の修学期間で博士号を取得することが可能となる。
上記のような博士課程を修了によって取得する博士号の他に、博士課程を持つ大学に学位論文を提出することによって博士号を取得することもできる。このように2通りの博士号があるため、課程修了による博士号を「課程博士」、論文提出のみによる博士号を「論文博士」と呼び分ける。博士号は授与大学ごとに通し番号が付けられるが、課程博士には甲1234XX号のように「甲」が、論文博士には乙1234XX号のように「乙」が付けられる。
授業料を払い一定期間在学しなければ取得できない課程博士に対し、就職して収入を得ながらでも論文提出だけで取得できる論文博士の存在は公平性を欠くこともあり、最近は論文博士制度を廃止しようとする動きがある。
また、わが国では、博士論文は製本されたもの1部が国立国会図書館に納本される他、取得後一定期間内に公刊することが義務づけられている。国立国会図書館と国立情報学研究所が作成している「博士論文書誌データベース」で国内の大学で授与されている博士論文の検索ができる。
人文科学や法学などの専攻分野において博士の学位は、以前は大学の教員が生涯の研究の集大成として取得するものであったので、取ろうと思っても中々取らせてもらえず大学の教員といえども博士の学位を持っていない人が多かった(分野によっては今でもそうである)。近年は、博士号は研究者の目標ではなくスタートラインだと考えられるようになり、平成3年の学位規則改正後は若い内から博士号を取る方向に大学院の指導も変化してきている。
なお、「学位を持っている」と言えば日常的には博士の学位をさす。
英語の表記では、Ph.Dと記述することが多い。「Ph.D」はラテン語で「Philosophiae Doctor (哲学博士)」を意味するが、哲学に限定されることなくすべての学問分野の博士号に対して用いられる。敬称として、通常のMr.Mrs.MissMs.の代わりにDr.、DR.が使われることがあるが、「doctor」は日常的には医者を意味することが多く、学位としての博士は、氏名の後にPh.Dと書くことの方が一般的である。
「法務博士(専門職)」は法科大学院の修了者に、「○○修士(専門職)」はそれ以外の専門職大学院を修了した者に授与される。
法科大学院の場合は標準修業年限が3年で、法学部卒などの法学既習者は2年で修了することも可能である。その他の専門職大学院では標準修業年限が2年となっている。高度専門職業人育成の観点から修了に際して学位論文は必須ではなく、院生に課さない大学院も多い。但し、その代わりとしてリサーチペーパーの提出やその後において大学院の修士課程ないしは博士課程進学希望者については、入学審査に学位論文の提出を求められるケースもあることから、希望者は論文指導を受け学位論文を提出するという選択肢を置いている場合が多い。また、中には学位論文を提出を義務付ける大学院も一部にはある。
なお、専門職学位は博士、修士とも異なる第3の学位である。よって、表記上、博士、修士という学位名称であっても、基本的に研究上の学位とは区別されるものである。但し、教育課程としては、修士課程(博士前期課程)と同等と看做される。
なお、専門職学位に相当する制度としてアメリカ合衆国の職業学位がある。アメリカの職業学位は、法曹養成のロー・スクールが授与するJ.D.、医師養成のメディカル・スクールが授与するM.D.、聖職者養成の大学院が授与するTh.D.、M.Div.などがある。
学位令発布当時は学位授与権が文部大臣にあったため、帝国大学などが授与する学士号は当初、称号とされた。平成3年以降、学位に編入された。
独立行政法人大学評価・学位授与機構は、防衛大学校、防衛医科大学校、海上保安大学校など学校教育法による大学以外でかつ他の法律に規定がある教育施設(大学校など)を卒業した者に学位を授与する。また、短期大学や高等専門学校を卒業し、一定の学習を行い大学卒業と同等の学力があると認められた者に学士の学位を授与する。
日本では、明治20年から平成3年までの間学位ではなく称号として扱われた。学士の授与権は常に大学が持っていたため、明治・大正期に出版された古い学術書の著者名に例えば「醫學士」(医学士)などと冠されているのを見れば、大学の数が少なかった頃は学士は充分に価値の高い称号だったことが伺える。
を満たす文部科学大臣が認定し、官報で公示した専修学校の専門課程の課程を卒業した者に授与される。文部科学省の指導により、専門士の表記は、「高度専門士(○専門課程)」と括弧書きで修了した分野の専門課程や学科の名称が付記されることになっている。修業年限は大学学部と同等である。よって、高度専門士の称号を有する者は大学卒業程度、或いは学士の学位とを有する者と同等の学力を有するものとみなされる(但し、高度専門士は学位と異なり国際通用性が無いため、あくまで国内での評価においてのみ大学卒業と同等とみなされる)。高度専門士の称号を持つ者には大学院修士課程・専門職学位課程への受験・入学資格がある。
を満たす文部科学大臣が認定し、官報で公示した専修学校の専門課程の課程を卒業した者に授与される。「専修学校の専門学校の修了者に対する専門士の称号の付与に関する規程」(平成6年文部省告示第84号)に定めがある。文部科学省の指導により、専門士の表記は、「専門士(○専門課程)」と括弧書きで修了した分野の専門課程や学科の名称が付記されることになっている。最近は民間資格などで○○専門士というものもあるが、専門学校の称号である専門士とは関わりはない。
専門士の例:専門士(工業専門課程)
世界でもっとも早く大学院が発達したのはアメリカ合衆国であり、そのため、近代的な学位制度は、アメリカ合衆国において最初に発達したと言われている。
明治19年に帝国大学令(明治19年勅令第3号)が発布され、翌20年に学位令(明治20年勅令第13号)が発布された。明治20年の学位令では、日本で教育を受けた者や一定の研究を行った者に、大博士または博士の学位を授与することになった。学位制度そのものは西欧の制度に由来するが、日本語としての学位呼称については、古く律令体制下における官職名がモデルとなっている。博士も中国王朝の制度を基につくられた大宝律令官制において設置されていた官名で大・中・小博士と三階級あった。博士の官職が置かれた部署としては陰陽寮に陰陽博士、暦博士、天文博士、漏刻博士、典楽寮に医博士、針博士、咒禁博士、按摩博士などの職が置かれており、学士という呼称も皇太子の教育官であった東宮学士に由来する。なお、律令官制下の博士の発音は「はかせ」であるが、学位の正式呼称としての博士は「はくし」と発音する。通称、日常生活の中では通称、俗称として「はかせ」と言うことも多いが、正規の用法ではない。
明治19年、東京大学が帝国大学に改組されて初代総長であった加藤弘之男爵が元老院議員に転進し、その謝恩会が開かれたのが発端となり、同大学卒業生により学士会が創設された。現在は社団法人化し学士会館を中心に旧帝国大学出身者の親睦団体となっているが、当時稀少だった学士号がそのまま会の名前になるなど、当時の学士号は非常に重みのあるものであった。
明治20年に発布された学位令では、各博士会の審査を経て、授与権者の文部大臣が授与するものとなった。このため大学が授与できるとされた学士号は称号と位置づけられることとなった。明治20年の学位令発令から平成3年まで、学士号は長い年月、学位ではなく称号として扱われた(ただし、学校教育法の附則(平成3年法律第23号の第2項)により、学校教育法に基づく「学士の称号」は、現行の「学士の学位」とみなすことになっている)。
学位令は明治31年に改正され(明治31年勅令第344号)、学位は法学博士、医学博士、薬学博士、工学博士、文学博士、理学博士、農学博士、林学博士および獣医学博士の9種とされた。明治19年の学位令が定めていた大博士の学位を授与された者は1人もなく、大博士の学位は、このときに博士の学位に統合されている。また、学位の授与・剥奪の審査を博士会という審議機関に委ねることにした(博士会規則:明治31年勅令第345号)。 当時の学位は学術的能力の指標としての意味もあるが、より栄誉としての意義が強かった。よって封建社会からの位階勲等あるいは爵位や軍人警察の階級などと並んで称される権威あるものであった。いわば当初の学位とは学術上の勲章の様なものであったと言えよう。
(例)従二位勲一等男爵医学博士北里柴三郎
明治34年、明治法律学校(後の明治大学)で明法学士の称号を授与する制度が始まる。また、明治39年には学術状況を高めるために、東京学士院が帝国学士院に改組された。44年4月には日本の学術成果の向上と業績への顕彰を目的として帝国学士院恩賜賞が創設された。また同年11月には帝国学士院賞も創設され、日本の学界の育成促進を支援し、これを大いに顕彰することとなった。大正9年には、学位令の改正(大正9年勅令第200号)があり、学位授与権が再び大学に移され、博士会制度も廃止された。
一部の旧制専門学校においては、得業士の称号を付与するという制度もあった。
昭和28年には、学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)が公布され、日本の学位において、それまでの博士の学位に加えて修士の学位が創設され、日本の学位は大きく2種類とされた。それ以降、日本の大学院は、修士課程・博士前期課程(標準修業年限2年)、博士後期課程(標準修業年限3年)となり、所定の単位を修得し、学位論文その他の要件を満たす者に対して博士または修士の学位が授与されるようになった。学術環境の面では昭和31年、日本学士院法が制定されることとなり日本学士院は日本学術会議からの分離独立がなされた。
昭和61年には、価値観、生活環境の多様化と高齢化社会の到来に向けて生涯学習の必要性が高まり、大学のほかに学位を授与する機関の創設について検討することが提言された。これにより、平成3年に文部科学省の施設等機関として学位授与機構(現在の独立行政法人大学評価・学位授与機構)が創設され、防衛大学校、防衛医科大学校、水産大学校、海上保安大学校、気象大学校、職業能力開発総合大学校や国立看護大学校の7大学校の卒業者や大学などで一定の学修を行った者に対して、学力の審査を経て、学位が授与されるようになった。また、日本の学術環境にも変化があり日本学士院においてエジンバラ公賞が創設され、研究業績への更なる支援と顕彰がなされることとなった。また、平成3年における学校教育法の改正では、「学士の称号」が「学士の学位」に変更され、日本の学位は、学士の学位が加わって、学士、修士、博士の3種類となった。また平成3年の学校教育法の改正では、短期大学または高等専門学校を卒業した者に準学士の称号が付与されることとなった。
平成6年には、文部省告示により、学校教育法にいう学校(学校教育法第1条の規定に基づく学校、1条学校)ではない専修学校の専門課程(専門学校)を修了した者にも専門士の称号を授与することとなった。さらに平成15年、高度専門職業人養成の観点から、法曹を養成する法科大学院を中心に、専門職大学院の設置が認められた。当初、専門職大学院は研究者の養成ではなく高度専門職業人育成の観点から、博士の学位でも修士の学位でもない第3の学位を創設しようという動きがあった。
その呼称決定における審議の過程で中国や韓国での修士の学位にあたる「碩士」(せきし)という名称で新たな学位を置くべきかという議論もあったが、最終的には第3の学位たるべき実務者のための学位は、学校教育法に「文部科学大臣が定める学位」として規定された上でそれぞれの分野における事情を踏まえて専門職学位と総称されることとなった。その上で具体的な名称については審議を経て、学位規則において法科大学院修了者には「法務博士(専門職)」、その他の専門職大学院修了者には「○○修士(専門職)」という専門職学位を授与することとなった。とりわけ専門職学位の中では公共政策大学院で授与されるMPP、MPMの学位や、ビジネス・スクールのMBAなどが代表例である。
専門職学位が第三の学位である以上、博士、修士という表記はあくまで国際標準に照らした通用性を確保するために便宜的に通用しやすい呼称を採用したものであり、研究領域の大学院で授与する博士、修士とは概念を異にする。よって、専門職学位における博士、修士という区分は研究学位の博士・修士の差ほどはない。むしろ国際的には学術的分野においては法務博士(専門職)の学位は学術分野の修士の学位よりも下位に扱われることとなろう。これは専門職学位の期待するところがあくまで特定の分野や職業におけるキャリア形成であったり、スキルの向上を主眼としているからに他ならない。現在では、短期大学の卒業者にも国際的な基準に合わせて学位を授与についても検討が進められ、中央教育審議会の答申を経て、新たに「短期大学士」という学位を創設する法案が国会に提出されて、可決成立した。
Akademisk grad | Akademischer Grad | Academic degree | Licence (grade universitaire) | Gelar akademis | Titulatuur